週刊エコノミスト Online

ロシア・ウクライナを震源に高まる国債破綻リスク

 ロシアがウクライナに侵攻し戦争状態に突入したことで、当事国だけでなく、両国と経済的なつながりが深い国々を中心に、さまざまな影響が出ている。その一つとして、各国が発行する「国債の信用度」に変化が起きている。国債の「破綻リスク」が世界的に急上昇しているのだ。

 編集部は、主要な先進国、新興国を中心に世界39カ国の「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)」について、この半年(2021年9月27日~22年3月27日)の変化幅を調べた。CDSは、信用リスクをやり取りする金融派生商品(デリバティブ)であり、国債の「デフォルト(債務不履行)時の保険」の役割を果たす。この変化幅が大きいほど、国債の破綻リスクが上昇、つまり危険度が上がっていると言える。

ロシア9段階格下げ

 個別の変化幅を見ていくと、紛争当事国のロシアとウクライナは、いずれも3000ベーシス ㌽(1ベーシスポイント=0・01%)以上の大幅上昇となっている。

 足元でロシアのCDSの変化幅は、08年のリーマン・ショック時や15年の通貨ロシア・ルーブル暴落時を超え、過去最高を付けた。

 ロシア国債の格付けは、ウクライナ侵攻後、投資適格級の「トリプルBマイナス」から投機的等級の「トリプルCマイナス」まで9段階も格下げされた。マネックス証券の大槻奈那専門役員は、「過去にトリプルCレンジに格付けが下がった国は、その後10年間で〝存続率(デフォルトしない確率)〟は2割に満たない」と指摘する。

 第一生命経済研究所の田中理主席エコノミストは、ロシアについて「12年のギリシャ、20年のアルゼンチンのデフォルト前の水準に匹敵し、80~90%程度のデフォルト確率を織り込んでいる」と話す。〝ロシア国債のデフォルトは不可避〟との見方が強まっている。

 このほか破綻リスクが高い国として、①アルゼンチンなどファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)が脆弱(ぜいじゃく)な国々、②ハンガリーなどウクライナからの避難民を多く受け入れている周辺諸国、③カザフスタンなどロシアとの結びつきが強い国々──が挙げられると田中氏は指摘する。

新興国に波及

 ①は新興国が中心だ。BNPパリバ証券の中空麻奈グローバルマーケット統括本部副会長は、「米国金利上昇および中国景気の停滞により、もともと22年中の新興国へのネガティブな影響は避けられなかった」と話す。

 コロナ禍の財政出動で政府債務が膨れ上がっていることや各国中央銀行が金融引き締めに動いていることで、利払い負担の増加や債務返済能力の悪化を反映している可能性がある。

 ロシアのデフォルトの可能性が高まっているだけに、「ロシアからの輸入が多いアルゼンチンや地理的に近く影響を受けやすいと考えられる国々はネガティブな見方を払拭(ふっしょく)できていない」(中空氏)。和平への道筋が見えない限り、国債破綻リスクは高まり続ける可能性がある。

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