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週刊エコノミスト Online

ウクライナ戦争後の世界秩序 国連安保理に代わるもの

米国のウクライナ支援は続くが、新たな世界秩序の枠組みは見えない Bloomberg
米国のウクライナ支援は続くが、新たな世界秩序の枠組みは見えない Bloomberg

 ウクライナでロシアは予想通り苦戦し、今やウクライナ軍に押し戻されつつある。和平がどのような形で成立するかまだわからないが、この戦争が今後の世界をどう変えるか考えてみたい。

 国連の設立メンバー、かつ「幹事」格であるロシアが、国連憲章を踏みにじる。どうしたらいいだろう。まず、国連安全保障理事会でのロシアの拒否権を奪うべし、という議論がある。しかし、これは不可能。なぜなら、そのためには国連憲章改正が必要なのだが、それにロシアが拒否権を使うからだ。しかもアメリカの拒否権をどうするのだとか、ロシアの代わりに自分を拒否権つきの常任理事国にしろとか、日本も含めて他薦自薦、と言うか自薦自選が殺到し、国連はますます麻痺する。

 考えれば、戦後45年ほど続いた冷戦の間でも、ソ連のアフガニスタン侵入や、中国のベトナム侵入などがあり、安保理は麻痺していたわけだ。それでも1967年の中東危機の時など、決議242号のように今でも引用される決議(イスラエルに占領地の返還を、アラブ側にイスラエルとの共存を求めた)を通している。そしてカンボジア、タジキスタン、旧ユーゴスラビアなどいくつもの地域で平和維持活動を主宰している。

 だから日本は、「ロシアのいない国連」を作るようなことよりも、今の国連を使い、かつ「敵対国条項」(第107条などは、日本、ドイツなど旧枢軸国は、第二次大戦で旧連合国側から受けた措置について国連憲章を援用することはできない、としている)を削除させることなどを求めていった方が賢いだろう。そして、安全保障理事会以外のフォーラム(どの国も拒否権を持っていない)を活用する。

紛争調停手段の限界

 今回のウクライナ戦争では、米国などが国連総会緊急特別会合招集の音頭を取り、ロシア非難の決議を反対わずか5カ国の圧倒的賛成多数で通している。ただ、特別会合を招集するのは簡単ではなく(安全保障理事会の要請又は国際連合加盟国の過半数の要請が必要)、その決議は拘束力を持たない。だから、国連憲章第22条に「総会は、その任務の遂行に必要と認める補助機関を設けることができる」とあるのを援用し、強い権限を持たせた「幹事会」を立ち上げて、紛争を調停させることも一案だろう。

 国連とは別途、国際刑事裁判所(ICC)がある。これは、個人の戦争犯罪を裁くことができる。2001年には、セルビアのミロシェビチ前大統領を、アルバニア人住民に対するジェノサイド(大量虐殺)の罪で審理している(同人はその最中に獄死)。今回ロシアのウクライナ侵略については、ICC検察官による申し立てを受けて、3人の判事が捜査開始の是非の検討を始めている 。しかし、米、中、インド、ロシアはこのICCのメンバーではない。

 しかし、これらの仕組みを総動員しても、麻痺した国連安保理にとってかわる力はない。世界全体の平和、いやそれよりまず、日本周辺の安定をはかるのに実効性のある枠組みはないものか。

新たな「Gx」創設

 冷戦時代の世界は、NATO(北大西洋条約機構)・日米同盟 vs. ワルシャワ条約機構、GATT(関税貿易一般協定) vs. コメコン(ソ連圏諸国の間の貿易調整機構)という具合に、一応拮抗する二つの極で成り立っていた。しかし今の世界は、OECD(経済協力開発機構)のような「近代文明諸国」の大きな塊がある他はバラバラだ。中国、インドは大きな存在だが、同盟国があるわけではない。

 だから、大きな塊になっている近代文明諸国が集まって意思を統一できれば、その力は大きい。オバマ大統領はG20を立ち上げG7を軽んじたが、G20は08年リーマン金融危機の収拾に役立っただけ。アメリカ、中国、インド、ロシアなど、性質と政策がぜんぜん違う国々が20も集まって、意味のある決定をできるはずがない。

 最近ではG7が蘇って、やたらリモートでの首脳会合とか外相会合とか財務相会合などが開かれているが、これはいいことだ。G7はもともとは、73年石油危機後の経済混乱を収拾するため立ち上げられた経済主体のフォーラム。しかしこれが政治、安全保障問題も議論するのは、日本にとってはいいことだと思う。G7では、日本は常に常任理事国の立場にいるからだ。

 しかし、G7だけではどうも合法性に欠ける。中進国や、途上国の代表も入っていないと、決定の迫力がない。となると、Gxを作ることになるだろうが、G7がそのままそこに入れる保証はなく、日本はふるい落とされないようにしないといけない。

 このGxの決定を担保、実行する実力部隊として、NATOと日米同盟などが緩く提携した「拡大NATO」を想定する。これは権威主義諸国と対立することになる。しかし、この頃には中国はロシアと離れているだろう。ロシアがこれだけ世界ののけ者扱いになってくると、中国にとっては重荷になるだけだからだ。ロシアが悪いことをやるたびに引きずり込まれ、西側の制裁を食らいかねない。中国は、Gxとはつかず離れずの関係を維持し、決定的に敵対するのは避けるだろう。

中国以外でも製造業は成り立つ

 「安全保障を脅かすから中国、ロシアとの経済関係を切る」と米国が大げさな物言いをすると、日本では大騒ぎになる。筆者はソ連時代のモスクワにいたが、日本の商社は世界でもトップ・クラスの実績を上げていた。というのは、先端技術の輸出こそ禁じられているものの、そうでないものの輸出入は自由だったし、決済もそれなりにできる体制が整っていたからだ。当時、日本が多額の融資をして開発したサハリンの天然ガス・石油の輸入は今でも続いている。

 中国に日本はその輸出の22%、輸入の26%を依存しているが(20年)、その多くは中国への製造機械、先端技術素材、部品で、これらは中国で最終製品を組み立てるのに使われて、その最終製品の多くは日本その他海外に再輸出されている。組み立ては中国以外に移転すれば、費用と時間はかかるが十分可能。第三国には十分なサプライチェーン(部品などの供給網)がないと言うが、90年代後半に外国企業が中国に進出した時もサプライチェーンはなく、日本も米国も西欧も自分の下請けを中国に出し、地場の企業も育ててきたのだ。同じことは第三国でもできる。

 中国との貿易に依存している日本の中小企業は多く、先端技術に関わるものは、中国市場を確かに失うだろうが、そうでないものは冷戦時代と同じく規制の対象にはならない。サプライチェーンを失うとかデカップリング(分断)とかの言葉に幻惑されてすべてを諦めることなく、何が規制されているか、そして何が米国政府の制裁を受ける可能性があるかを精査して、ビジネスを展開する心構えが必要になる。

(河東哲夫・外交アナリスト、元在ロシア大使館公使)

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