《危ない円安》経常赤字 私はこう考える5 恒常的な赤字ではない=山口範大
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1月の経常収支は1・1兆円の赤字となり、昨年12月に続き2カ月連続の赤字となった。貿易・サービス収支の赤字を、所得収支の黒字で補えなかった形である。
足元の経常赤字の主因は貿易赤字の拡大だ。輸入面では、商品価格の高騰を受け、1次産品の輸入額が急激に膨らんでいるほか、ワクチン接種に伴い、医薬品輸入も増加している。一方で、輸出は、サプライチェーン(供給網)混乱の影響が続き、主力の自動車が不振であることから回復が遅れている。また、サービス収支は、コロナ禍でのインバウンド(訪日客)需要の文字通りの蒸発により、赤字が続いている。
こうした背景を踏まえると、向こう数カ月間、貿易赤字は一段と拡大、経常収支でも赤字の月が生じる可能性が高い。最大の要因は引き続き商品価格である。ロシア・ウクライナ開戦後の一段の価格上昇の影響は、今後収支に反映される。
加えて、輸出面でもメーカーの生産計画を踏まえれば、自動車輸出の本格的な回復には今しばらく時間を要しそうだ。サービス輸出も、厳しい水際措置が続くなか、回復が想定し難い。IATA(国際航空運送協会)およびツーリズム・エコノミクスによる予測では、中韓台と日本の間の旅客数は、当面コロナ前の15%程度にとどまる。
高齢化で貯蓄増
さらに無視できないのが、足元の円安の影響である。最近では円安による輸出量の刺激効果が薄れており、輸入代金増による貿易収支悪化の側面だけが現れることが懸念される。
もっとも、足元で日本が恒常的な経常赤字国に転換したとは考えていない。商品市場では、ウクライナ情勢はすでにある程度価格に織り込まれたと考えられ、高止まるにせよ、一段と上昇するには追加の材料が必要だ。医療品輸入増と自動車輸出不振は、一時的要因である。
また、日本の経常収支への影響が大きいのは、貿易収支よりも、むしろ所得収支(第1次)の動向である。所得収支は、直接投資収益と証券…
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週刊エコノミスト
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