週刊エコノミスト Online学者が斬る・視点争点

ウイスキー・バブルはいつまで続くか=糸久正人

 海外での高評価と需要増を受け、日本産ウイスキーの価格が高騰している。しかし、今後、供給が急増する見通しで、ブームの先行きに不透明感も強まっている。

蒸留所数は全国50カ所、値崩れの恐れも

 ジャパニーズ・ウイスキーが世界の熱い視線を集めている。2019年に香港で開催されたオークションでは、ベンチャーウイスキー(埼玉県秩父市)がつくる「イチローズモルト」のカードシリーズ(フルセット54本)が約1億円で落札された。サントリーの「山崎55年」にいたっては、20年に330万円で販売された直後、1本約8500万円で落札されたのである。近年は新しく発売されたばかりの3年熟成程度の若いシングルモルト(単一の蒸留所の原酒で造られた)ウイスキーでさえ、販売と同時に売り切れ、定価の数倍の価格で取引されることも珍しくない。明らかに「ジャパニーズ・ウイスキー・バブル」と呼ぶべき事態となっている。

 モノの価格は、需要と供給のバランスで決まる。今回のバブルの発端は、世界的なジャパニーズ・ウイスキーの需要増大に伴う原酒の供給不足によって引き起こされた。歴史を振り返れば、日本のウイスキー業界は長く不遇の時代が続いていた。戦前からウイスキー業界に参入しているサントリー(山崎、白州、知多蒸留所)やニッカウヰスキー(余市、宮城峡蒸留所)などが日本のウイスキー市場を開拓し、ウイスキー文化の普及にも尽力してきた。しかし、日本のウイスキー消費量は1983年をピークに低迷を続け、00年に入ったころにはピークの半分以下にまで落ち込んでしまったのである。実際、羽生蒸留所や軽井沢蒸留所が閉鎖されるなど、需給バランスは縮小均衡が続いていた。

「イチロー」の躍進

 状況が一変したのが、00年代の後半である。端緒となったのが、08年にサントリーが手掛けた「ハイボール復活プロジェクト」である。角瓶、トリス、白州といったウイスキーを炭酸で割ることにより、食中酒としても飲めるハイボールを、若者を中心に訴求していったのである。更なるブームの火付け役となったのが、ニッカの創業者である竹鶴政孝氏をモデルとし、14〜15年放映されたNHKの連続テレビ小説「マッサン」である。

 ハイボールブームの裏で、ジャパニーズ・ウイスキーに対する世界的な評価がうなぎ登りになっていった。海外の品評会で最優秀賞を受賞するようになったのである。とくにイチローズモルトの躍進は目覚ましい。東亜酒造の羽生蒸留所から廃棄寸前の原酒を引き取り、シェリー樽(たる)やワイン樽でフィニッシュさせることで、冒頭のカードシリーズをリリースした。07年には秩父蒸留所が竣工(しゅんこ…

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