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《まだまだ伸びる半導体》日本パワー半導体が仕掛ける投資の反転大攻勢=編集部

電気自動車など向けにパワー半導体需要も伸びている(ロームのSiCパワー半導体とSiCの150ミリメートルウエハー) ローム提供
電気自動車など向けにパワー半導体需要も伸びている(ロームのSiCパワー半導体とSiCの150ミリメートルウエハー) ローム提供

ローム、富士電機が大型投資

 ロシアのウクライナ侵攻など世界の不確実性は高まっても、半導体市場は今後、さらなる成長が見込まれる。日進月歩で進化する業界や企業動向の最前線を追った。

次世代パワー半導体で地歩=村田晋一郎/金山隆一

 日本で今、パワー半導体の増産投資が相次いでいる。電力を効率よく利用するためのパワー半導体は、電気自動車(EV)をはじめ脱炭素化に向けても欠かせないデバイス。日本の半導体はメモリーやロジック(演算)では競争力を失ったが、パワー半導体では日本メーカーが優位を維持しており、増産投資でさらに攻勢をかける。(まだまだ伸びる半導体 特集はこちら)

 ロームは6月8日、子会社のローム・アポロ筑後工場(福岡県筑後市)で、SiC(炭化ケイ素)基板のパワー半導体を生産する新棟の開所式を開いた。ロームはSiCの150mmウエハーでパワー半導体を生産しているが、年末に稼働予定の新棟では、ロームでは初の200mmへの大口径化にも対応。2025年度までに最大1700億円を投じて、生産能力を21年度比で6倍に引き上げる。

 ロームによれば、パワー半導体の需要は脱炭素化の進展などで、想定よりも2年前倒しで増えているという。ロームのSiCパワー半導体の世界シェアは現在14%で、トップはスイスのSTマイクロエレクトロニクス。ロームの松本功社長は新棟の開所式で「25年度にシェアを30%に引き上げ、将来的にトップを目指す」と述べた。

 パワー半導体はシリコン(Si)素材が主流だが、次世代の素材として注目されているのがSiCだ。シリコンに比べて高い電圧がかかっても壊れにくく、基板を薄くできる。また、熱も逃がしやすく、冷却装置の小型化も可能。高品質なSiC結晶の生産にコストがかかるため、SiCパワー半導体もシリコンに比べて価格は高いが、それでもなお増産投資に見合うほど需要が伸びている。

 SiCパワー半導体では、富士電機も今年1月、富士電機津軽セミコンダクタ(青森県五所川原市)工場で、増産に向けた設備投資を発表。150mmウエハーの新ラインを構築し、24年度に量産を開始する。富士電機は23年度までの5カ年の中期経営計画で、シリコンを中心にパワー半導体に計1200億円の設備投資を行うとしていたが、今回の投資を含め1900億円まで拡大する見込みだ。

東芝、ルネサスも増強

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 国内ではシリコンでも新規投資が止まらない。現在の投資の主流は、従来の200mmウエハーから、300mmウエハーへの大口径化だ。口径が大きくなればその分、生産できるパワー半導体の数も多くなる。量産にさらに弾みを付けようと、東芝やルネサスエレクトロニクスが300mmシリコンウエハー対応の新規投資や新ライン稼働の前倒しを進めている。

 東芝は今年2月、200mmウエハーのパワー半導体を生産している子会社の加賀東芝エレクトロニクス(石川県能美市)工場で、同社では初となる300mmウエハー生産ラインの稼働開始時期を従来の「23年度上期」から「22年度下期」に前倒しすると発表した。さらに、300mmウエハー対応の新製造棟も建設し、24年度中の稼働開始を目指す。パワー半導体の生産能力は21年度比で2.5倍に増強されるという。

ルネサスエレクトロニクスがパワー半導体の生産拠点として稼働を再開する甲府工場_ルネサスエレクトロニクス提供
ルネサスエレクトロニクスがパワー半導体の生産拠点として稼働を再開する甲府工場_ルネサスエレクトロニクス提供

 ルネサスも今年5月、14年に閉鎖した甲府工場(山梨県甲斐市)に900億円を投じ、300mmウエハー対応のパワー半導体生産ラインとして24年に稼働を再開させると発表した。車載向けに高速・高耐圧のスイッチング(電気信号のオン・オフ)に用いられる「絶縁ゲートバイポーラトランジスタ」(IGBT)などを生産。閉鎖した工場が再稼働すること自体も珍しく、地元には雇用拡大への期待も渦巻く。

 パワー半導体は高まる需要に対して供給がなかなか追い付かない。デンソーは自社でもパワー半導体を生産するが、さらなる量の確保に向けて今年4月、大手ファウンドリー(製造受託企業)の台湾聯華電子(UMC)と協業すると発表。UMCの日本子会社ユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン(USJC、三重県桑名市)の工場に、300mmシリコンウエハー対応のパワー半導体生産ラインを新設する。

酸化ガリウム素材開発

 パワー半導体では次世代の素材への投資も活発だ。SiCに続く次世代素材として今、酸化ガリウム(Ga₂O₃)の開発が進んでいる。技術で先行するのはタムラ製作所の子会社ノベルクリスタルテクノロジー(NCT、埼玉県狭山市)と、京都大学発スタートアップのFLOSFIA(フロスフィア、京都市)の2社だ。NCTは今年3月、150mmウエハー上でGa₂O₃の成膜に成功したと発表するなど、着実に成果は上がっている。

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 業界の期待も高い。NCTにはAGCや新電元工業、トレックス・セミコンダクターなどが出資しており、今年5月にはロームも新たに出資。一方、フロスフィアには三菱重工業やデンソー、ダイキン工業などが出資する中、今年1月に三洋化成工業が出資を決め、年内の量産を目指すとしている。

 半導体市場では「シリコンサイクル」として、4年を周期に好不況を繰り返してきた。需要動向の見極めが難しく、メモリーやロジックで日本メーカーは過剰投資によって業績が悪化し、事業撤退や倒産に追い込まれたりもした。ただ、日本では東芝や日立製作所などパワー半導体を必要とする重電メーカーが多いこともあり、パワー半導体では依然として高い競争力を保ち続ける。

 そして今、半導体需要はパソコンやスマートフォンがけん引した時代から、IoT(モノのインターネット)、5G(第5世代移動通信システム)、EV、メタバース(三次元の仮想空間)などへ移りつつある。その背景でうねるのは脱炭素化の大きな流れ。ロシアのウクライナ侵攻でエネルギーの調達危機にも直面する中、限られたエネルギーを効率よく使うためにもパワー半導体の役割は高まる。

「人間の欲求がある限り、半導体は不滅だ」──。日本半導体製造装置協会(SEAJ)副会長で荏原フェローの辻村学氏はことあるごとに繰り返す。人間の欲求を満たす電子機器に半導体は必要不可欠。そして、人間の欲求が高まるにつれ、半導体はさらに進化する。パワー半導体で日本が地歩を固めて世界をリードできれば、その先の未来もさらに広がる。

(村田晋一郎・編集部)

(金山隆一・編集部)

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