経済・企業

日本の半導体が生き残る戦略は二つある=野辺継男

 半導体では日本が首位の分野はまだある。それを突破口に新領域に展開できるかが生き残りの鍵になる。

「部材・装置の競争力維持」と「自前の自動運転チップ開発」=野辺継男

 1988年、日本の半導体は売上高で世界シェアの50%を超えたが、2019年には地域別シェアで中国(35%)、米国(19%)、台湾(15%)、韓国(12%)、欧州(10%)の後塵(こうじん)を拝し、9%程度へと低下している。しかし、半導体に関わる幅広い分野の一部では、日本は引き続きトップレベルにある。今後、日本の半導体はいかに復活し得るのか。

イメージセンサーでトップ

 日本に必要な戦略は二つある。一つは「日本の得意分野で世界の地位を維持・拡大する」という認識を持つことだ。半導体産業の売り上げは、最終製品であるICなどチップの売り上げのみではない。半導体は極めて複雑な工程を、高純度な素材と高価な製造装置を利用して超精密な加工をする。素材も製造装置も極めて高度な技術を利用して製造され、半導体産業の競争力はそうしたサプライチェーン全体を分析する必要がある。

 製造工程を例示すると図1のようになる。ウエハーなどの部材から露光装置などの製造装置、アーキテクチャー(設計思想)、ロジック(論理演算機能)、メモリー、センサー、パワー半導体、アナログ半導体などの設計がある。最近はチップやボードまで設計を行うファブレス企業と、それらのパッケージングからテストを含み製造を受託するファウンドリーに分かれ、互いに協力しあう企業も増えている。その市場規模は、19年で設計製造が54兆円(うちロジック21兆円、メモリー18兆円、その他センサー、パワー半導体、アナログ半導体で15兆円)に対して、露光・成膜・エッチングなどの製造装置が9兆円、シリコンウエハー、レジストなどの素材が6兆円となっている。

 こうした半導体製造に関わる分類の中で、日本は、半導体製品として最先端アーキテクチャーやロジック設計では遅れてしまったが、イメージセンサーではソニーグループが圧倒的なシェアを持ち、パワー半導体では、日本の上位5社(三菱電機、富士電機、東芝、ルネサスエレクトロ二クス、ローム)を足すと、1位の独インフィニオンの売り上げを超え、国別で日本が1位である。

 半導体メモリーのNANDフラッシュでは、21年、日本のキオクシアが世界シェア20%で、同30%のサムスン電子に次ぎ第2位につけている。さらに、シリコンウエハーでは信越化学工業、SUMCOなどが世界の51%、フォトマスク関連では大日本印刷、凸版印刷、HOYAなど、フォトレジストではJSR、東京応化工業など、製造工程の重要な部分で9割以上のシェアを持っている。こうした分野を、引き続き高度化し半導体産業や半導体技術の根幹の一部でも押さえ続けることは、日本の半導体市場を再拡大させるための基盤となる。

台湾と韓国で異なる強み

 台湾はどうか。メモリー系とロジック系に分けて分析すると、台湾での生産世界シェアはメモリー系では13%に対して、ロジック系では30%だ。台湾のいくつかの企業は、00年前後からパソコンに必要な半導体やボード作り、さらにはパソコン本体の製造請負まで行い、10年には、対象をスマホに拡大し、さらにはデータセンター用の高性能パソコンまで製造(EMS化)し、世界の生産基地といえるまでに成長した。

 そうした過程を経て、各電子機器の脳にあたるAI(人工知能)や複雑なデータ処理をする高度なロジック半導体の生産能力が、特に米国を中心に拡大したアップル、エヌビディア、クアルコムなどのファブレス企業からの委託により、爆発的な成長を果たした。特に、半導体プロセスノード20ナノメートル(ナノは10億分の1)以下の最先端半導体の9割近くが台湾のTSMCで製造されている。

 一方、韓国は、すべての情報機器の「記憶」を担う半導体であるメモリー系で世界需要の大半を製造している。生産の世界シェアは台湾とは逆で、メモリー系は35.2%で、ロジック系は8.2%と相対的に低い。韓国の半導体製造能力は98年にDRAM(メモリー)の製造で日本を抜いて以来、世界最大で、半導体メモリーそのものの技術のみならず、製造技術にも莫大(ばくだい)な投資を行い高度化してきた。

 メモリーでもロジック半導体と同等の最先端のプロセスノードに達しており、半導体企業として世界最大のサムスンは、今後ロジック系市場でもより積極的に競争すると公表している。韓国政府も、減税、金利の引き下げ、規制の緩和、インフラストラクチャーの強化で産業にインセン…

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週刊エコノミスト

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