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経済・企業

変わる鉄道の役割 乗ること自体が観光だ=大塚良治

乗ることが目的の「あじさい電車」 筆者撮影
乗ることが目的の「あじさい電車」 筆者撮影

 鉄道網を維持するためには、鉄道を観光資源ととらえ、乗ること自体が目的となるように魅力を高めていく必要がある。

「観光資源」としての潜在力

風景や車両の魅力生かす動きも

 コロナ禍で激変した社会経済環境の下、利用の少ない鉄道路線はその存在意義を改めて問い直されている。もともとコロナ禍前より、人口減少やモータリゼーションの進展、高速バスや航空路線の発達などにより、鉄道を取り巻く環境は厳しかった。2016年11月18日にJR北海道が「当社単独では維持することが困難な線区について」を公表して以降、JR各社でローカル線見直しの動きが進んでいる。(鉄道150年 復活の条件 ≪特集はこちら)

 22年7月25日に国土交通省の有識者会議は「地域の将来と利用者の視点に立ったローカル鉄道の在り方に関する提言」を公表し、輸送密度(旅客営業キロ1キロメートル当たりの1日平均旅客輸送人員)が1000人未満、かつピーク時の1時間当たり輸送人員500人未満などのJR各社のローカル線区について、国が「特定線区再構築協議会(仮称)」を設けてバス転換も選択肢に入れて検討することを盛り込んだ。そして同月28日には、JR東日本が輸送密度2000人未満の収支を公開。開示された35路線66区間のすべてが赤字となっている。

 鉄道網を維持するためには、魅力づくりや存続のための新しい論理が必要である。

絶景に車内から歓声

 異例の早さで梅雨が明けた7月のある休日。夜のあじさいを見に、箱根登山鉄道線箱根湯本駅(神奈川県)から強羅行き「あじさい電車」に乗車した。出発後、程なくしてライトアップされたあじさいが車窓から見え始めると、車内から歓声が上がった。22年度はコロナ禍のため休止したが、通常のあじさいシーズン中の夜には、座席指定特別列車「夜のあじさい号」の運行もある。座席指定料金は大人310円・子供160円であるが、一般車両が用いられている。「あじさい電車」は乗ること自体が目的の列車であり、まさに鉄道が観光資源そのものである。

 もともと鉄道への需要は、目的地での目的を果たす(本源的需要)ために副次的に発生する、出発地から目的地までの移動需要(派生需要)である。しかし今後は、鉄道に乗ることを本源的需要とする取り組みが必要になるのではないか。

 都内から箱根登山鉄道線の起点である小田原駅までの移動手段としては、箱根湯本駅までの直通便もある特急ロマンスカーを運行する小田急電鉄が有力な選択肢である。ロマンスカーは古くから展望席を設けるなどして、幅広い層から人気を集めてきた。実際ロマンスカーに乗りたいという理由で、箱根を目的地に選ぶ人もいる。箱根への旅を演出する観光列車として人気を保っている。

 一方、魅力づくりとしては、JR九州のように、デザインを重視した車両を次々に投入している例もある。ただし、デザインを重視すると、多額の費用がかかることも多く、思うような集客ができない場合、収支の悪化につながるリスクをはらむ。

コストを抑えて新たな魅力を創った「ながまれ号」 筆者撮影
コストを抑えて新たな魅力を創った「ながまれ号」 筆者撮影

 路線収支の改善には、コストを抑え増収を図る必要があるが、コストを抑えた列車でも、魅力を創り出すことは可能だ。その例として、JR北海道から経営分離された旧江差線を運営する道南いさりび鉄道の「ながまれ号」がある。JR北海道から譲り受けた既存車両に対して、外装のリニューアルや車内への着脱式テーブルと座席ヘッドレストの設置にとどめることでコストを抑えた。普段は一般列車として運用されるが、旅行会社によるツアー列車としても利用され、人気を集めている。

 また、北条鉄道(兵庫県)が一般列車の増発用にJR東日本から購入したキハ40は、外装をJR時代のまま運用しており、鉄道ファンが各地から訪れている。

 そして、鉄道利用客を地域への回遊に誘導する仕組みを作ることも重要である。12年10月に放映を開始したアニメ「ガールズ&パンツァー」は茨城県大洗町が舞台となっており、同町および鹿島臨海鉄道が観光客誘致に活用した。現在でも多くのファンが同鉄道を利用して同町を訪れる。地域資源にストーリー性を持たせることで、ある日を境に人気の観光地に変わることもある。鉄道事業者と地域が連携して地域の魅力を発掘し磨き上げることが、鉄道利用客と地域入れ込み客の両方の増加と地域経済の循環につながる。

「存続の理由」は作れる

重要路線と位置づけられる野岩鉄道は存続論議が起きていない 筆者撮影
重要路線と位置づけられる野岩鉄道は存続論議が起きていない 筆者撮影

 こうした努力を続けるとしても、輸送密度による存廃基準から脱却しない限り、鉄道網の縮小は避けられない。国交省有識者会議の「提言」は、輸送密度1000人未満をバス転換を含む検討の一つの目安に設定している。

 一方、輸送密度1000人未満でも存廃論議が起こらない路線がある。野岩(やがん)鉄道会津鬼怒川(きぬがわ)線(栃木県~福島県)の19年度の輸送密度は540人である。会津高原尾瀬口駅で接続する会津鉄道会津線(福島県)の同年度の輸送密度も628人にとどまる。野岩鉄道は国鉄再建法により建設凍結となった野岩線を引き受けるために、会津鉄道は国鉄第2次特定地方交通線に指定された会津線を引き受けるために、それぞれ設立された。両社とも発足以来、存廃論議は起こっていない。その理由は両社線ともに、会津地方と首都圏を結ぶ重要路線と位置付けられているためである。

 また、成田空港のそばで営業する芝山鉄道(千葉県)は、19年度の輸送密度が1434人で、JR東日本とJR西日本が示した輸送密度2000人未満に該当する。同社には、成田国際空港が周辺自治体に交付している「成田国際空港周辺対策交付金」を原資とした補助金が支給されているため存廃問題は起こらない。

 これらの事例は、鉄道存続の論理はいかようにも作り出せることを示している。ローカル鉄道存続のための新しい論理を作り出すことが、鉄道網の維持につながるのである。

(大塚良治・江戸川大学准教授)

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