日本が迎える少子化対策リミット 2030年までがラストチャンス=藤波匠
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日本では25~34歳の女性人口が2030年以降、再び減少に転じる見通しで、出生数の減少にブレーキをかけることが極めて困難な状況になる。
少子化対策は総合政策 社会政策と経済政策で若い世代を支える必要がある
フランスやフィンランドなど、積極的な少子化対策によって合計特殊出生率(TFR)の押し上げに成功した欧州諸国で、近年、TFRの低下が目立っている。一方で、以前はTFRが低く、日本と同程度であったドイツなど欧州の一部の国で、TFRが上昇傾向を示している。この背景には何があるのか。欧州諸国のTFRの動向などから、日本の少子化対策について考えてみたい。
TFRとは15~49歳の女性の年齢別出生率の合計で、1人の女性がその期間に生む平均の子どもの数を示す。人口維持のためには、TFR2.07以上が必要とされている。図1は、OECD(経済協力開発機構)加盟38カ国中、36カ国の2010年から20年までのTFR変化率をまとめたものだ。10年のTFRが他の国々から乖離(かいり)しているイスラエル(TFR3.03)とTFR下落率が30%を超える韓国は除外している。
図1を見ると、10年にTFRの高かった国ほど高い下落率を示していることが分かる。例えば、子育て支援先進国として名高いフィンランドは、TFR1.87(10年)から1.37(20年)と著しく低下している。政策効果によって一時的にTFRを高めることができたとしても、その状況を持続することが容易ではないことがうかがえる。
ドイツやハンガリーなど、10年にTFRが低かった国の一部には、その後上昇傾向がみられた国もあるが、全体としては、低下した国の方が多かった。その結果、イスラエルと韓国を除くOECD36カ国の平均TFRは、10年の1.72から20年には1.57に低下し、しかも多くの国が平均値近傍に収束する傾向がみられる。TFRが平均値±0.1の範囲に入る国の数は、10年は20カ国だったが、20年には26カ国へ増えている。
平均値収束の3要因
OECD各国のTFRが平均値に収束傾向にあることを定性的な面からみれば、次のような三つの要因が指摘できる。
第一に、少子化対策先進国の政策効果が低下している点だ。少子化対策先進国において、政策メニューが特段変化したわけではないが、政策から対象者が得る効用が限界的に逓減している可能性がある。つまり、優れた少子化対策であっても、それがスタンダードとなった後では、国民が恩恵を感じにくくなっていると考えられる。
第二は、少子化対策後進国での対策が強化されたことだ。少子化対策に後れを取ったハンガリーやドイツなどにおいて、少子化対策先進国で成果が上がったとされた政策が積極的に導入された。
第三が、人口の流動性が向上したことだ。移民を含め、欧州諸国で人口移動が容易であったことなどの影響が考えられる。難民など、欧州外からの移民は一時的に出生率の押し上げに寄与すると考えられるが、先進国間の人口移動は、各国の出生率を一定水準に近づける働きをしていると考えられる。
10年代にTFRの引き上げに成功した数少ない国の一つであるドイツを取り上げ、その要因や背景について分析したい。ドイツのTFRは、06年以降の10年間でおよそ19%上昇した(図2)。ドイツのTFR上昇率は、日本で05年から15年までの10年間にみられた上昇率(15%)を上回っている。
ドイツにおいて10年代に取り組まれた政策や環境変化についてみてみたい。ドイツではもともと、日本よりも国内総生産(GDP)対比の少子化政策支出が高い状況にあったが、とりわけ05年以降は少子化対策先進国にならい、現物給付、主として保育サービスの充実に力を入れてきた(図3)。加えて、子どもが小さいうちは両親に時間短縮勤務を奨励する金銭的インセンティブを設けるなど…
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週刊エコノミスト
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