マンションは新設から建て替えの時代へ!「敷地売却」を活用せよ 塚越隆行
建て替え時代へ法整備進む
福岡市の9階建て分譲マンション「パール福岡」(住宅85戸、店舗6戸)で2021年5月、建て替えに向けた工事が始まった。築47年と、旧耐震基準で造られたため耐震性不足が確認されていた。24年9月、地上19階建てのマンション(住宅130戸、店舗3戸)に生まれ変わる予定だ。(マンション管理必勝法 ≪特集はこちら)
区分所有者が多様化した現在、全員の合意は難しい。建て替えに伴う引っ越しなど経済的負担もあり、老朽化しても建て替えに進みにくいマンションが多い。
そんな中、パール福岡で住人らの背中を押したのが、14年改正の「マンション建て替え円滑化法」で新設された「マンション敷地売却制度」だった。
この制度は、耐震性不足で「特定要除却認定」を都道府県や市などから受けると、区分所有者及び議決権者の各5分の4の賛成で、建物と敷地が一括で開発業者などに売却できるというものだ。建て替え時の際に容積率が緩和されるほか、区分所有者は建て替えを待つことなく代金を得ることができる。
敷地の買い受け人は同法に基づく行政の認定が必要で、主に大手デベロッパーが想定されているが、再開発にあたっては、新たなマンションの他、商業施設を併設した複合マンションや戸建て、福祉施設など、より安心・安全なまちづくりに貢献する建物や地域を活性化する建物に転換できる。
広がる終活の幅
これまで老朽化したマンションのたどる道は、区分所有者ら全員の合意が原則必要だったため、主に①大規模修繕などで維持、②建て替え、の二者択一だった。そこに時間的にも手続き的にも区分所有者にメリットのある、③敷地売却という選択肢がとりやすくなり、いわゆる「マンションの終活」の幅が広がったことになる。
そして同法はさらに改正され、昨年12月から今年4月にかけ、段階的に施行。今回の改正で「要除却認定」の対象が拡大された。
耐震性不足以外にも、火災安全性の不足や外壁などがはがれ落ちる危険性のあるマンションや、住宅における生活の基本的条件であるインフラに問題があると認められる(配管設備腐食等・バリアフリー不適合)マンションといった4類型が追加された。
国はなぜ建て替えが進むよう要件を緩和するのか。
それはマンションの維持には適切な管理が欠かせないが、空き部屋の増加や居住者の高齢化が進むなどして管理不全に陥れば、問題は地域にまで波及する可能性がある。また、外壁がはがれ落ちるなどの危険や、“スラム化”による治安悪化の懸念などがあるからだ。
国土交通省によると今年4月現在、要除却認定を受けたマンションは37件、うち敷地の売却が完了したのは6件だ。
東京の都心部などではマンション用地が不足気味だ。そこで各デベロッパーが注目しているのが、駅近の高経年マンションだ。既にこの制度を使って、デベロッパーが買い受け人となったマンション敷地には、オフィスビルや商業施設の建設も予定されている。
決議の要件緩和検討
今後は区分所有者が多様化・高齢化していくことで、相続で所有関係が複雑化したり、意思決定が難しくなったりし、さらに建て替え決議のハードルは高くなることが予想される。そこで政府は、建て替え決議において、一定の条件のもとで所有不明者を分母から除くことや、決議に必要となる「5分の4」以上の賛成という要件を緩和することなどに向けても検討している。実現すれば、より「終活」はしやすくなり、「建て替え時代」が本格化するだろう。
(塚越隆行・マンション建替推進協会代表理事)