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経済・企業2022年の経営者

光学・精密技術で「ものづくり」を革新 馬立稔和・ニコン社長

Photo 武市公孝:東京都港区の本社で
Photo 武市公孝:東京都港区の本社で

馬立稔和 ニコン社長

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)>>これまでの「2022年の経営者」はこちら

── 4月に発表した2025年度まで4年間の中期経営計画(中計)では、25年度に売上収益7000億円、営業利益率10%を掲げました。22年3月期の売上収益5396億円からどのように達成しますか。

馬立 10年後の30年にどういう社会になっており、その時に社会にどう貢献できるかを念頭に計画を策定しました。25年度の数値目標を実現するため、映像、精機という二つの主要事業で安定収益を確保するとともに、ヘルスケア、コンポーネント、デジタルマニュファクチャリングの3事業を「戦略事業」として、収益を拡大する考えです。そして、これら5事業すべてで製品を使ったサービスを展開します。例えば、カメラを使って楽しんでもらうビジネスを提供して収益にするという考え方です。

ミラーレス新製品が好調

── カメラ事業は一時、苦戦しました。今後の戦略は。

馬立 スマートフォンの普及によりデジタルカメラ市場が急激に縮小し、一時は事業が赤字に陥りましたが、生産能力を適正化し、販売チャンネルを整理するなどした結果、21年度に黒字化しました。厳しい状況になったのは、一眼レフからミラーレスに本格移行する時期が重なったためです。

 ただ、21年末に発売したミラーレスの旗艦モデル「Z9」が好調でその革新的性能を他機種にも展開し、若年層向けの宣伝や製品開発も強化します。スマホでは撮影できない高レベルの動画機能を搭載したいです。例えば今夏発売の「Z30」はブイロガー(動画配信者)向けの機種ですが、レンズ交換式で画質は落とさずに動画配信に便利な機能を搭載しました。

── 高性能の製品を増やす方向ですね。

馬立 19年に社長になった時、「映像製品はプロ・趣味層にフォーカスする」という方針を決め、コンパクトカメラは段階的に縮小しました。高機能製品が増えたことで、平均単価は2割上がりました。今後はより手に取りやすい価格帯の機種を増やしていきたいです。開発はミラーレスに集中しますが、一眼レフは販売を続け、撤退はしません。カメラ事業は競争が激しいので、4年後の営業利益は現状と同じ200億円ほどを想定し、黒字を維持するのが目標です。

── 中計では、映像事業の成長を担う分野にコンテンツを掲げました。今後の戦略は。

馬立 将来を見据え、カメラにとどまらない映像事業を構築するため、三次元(3D)など高品質の映像制作に挑戦します。その一環としてコンテンツ制作者を集めた子会社「ニコンクリエイツ」の営業を4月に始めました。バーチャル映像を映し出し、それを背景に俳優が演技する「バーチャルスタジオ」を開設し、テレビコマーシャルや映画といった商業映像を短期間、安価、容易に制作できるようにします。カメラ製品の高い技術を生かせると考えています。

── 映像とともに精機事業も収益の柱です。今後の戦略は。

馬立 主な製品は、フラットパネルディスプレー(FPD、薄型画面)露光装置と、半導体露光装置です。FPDの生産は落ちて影響を受けていますが、半導体装置事業は増益です。今後は、半導体関連の測定器や検査機器などにも力を入れ、製品群を広げて収益を安定化させたいと思っています。

── デジタルマニュファクチャリング事業はどう展開しますか。

馬立 「ものづくりの革新」の潮流に合う材料加工とロボットビジョン(ロボットの目となるカメラ)に取り組みます。材料加工に使う光加工機は、半導体露光装置で培った光利用技術と精密技術を応用したものです。刃物を使う工作機械とは違い、金属の粉末にレーザーを照射して固め、造形する金属3Dプリンターで、細かい金属部品の製作や表面の研磨など、さまざまな造形が可能になります。ロボットビジョンでいえば、ロボットが人間と同じように滑らかに速く動けるシステムを作りたいです。当社の技術を使えば、技術革新を起こせると信じています。

── 材料加工では金属3Dプリンター大手の独SLMソリューションズグループを買収します。

馬立 買収金額は840億円で、当社として過去最高の案件です。SLMは金属の3Dプリンターでは老舗で、その技術を使えば今までできなかった完成品も作れるようになります。SLMの技術を組み合わせ、装置販売と受託販売の両輪を持つめどがつきました。

── 今後の投資戦略は。

馬立 中計期間中に7000億円の投資を計画しており、重点分野は材料加工とヘルスケアです。材料加工ではSLMの買収が一つです。ヘルスケアは顕微鏡、眼底カメラ、細胞培養の3分野で事業を進めていますが、さらに顕微鏡による画像分析を製薬会社や研究機関に提供して創薬などに役立てるビジネスにフォーカスしたいです。

(構成=谷道健太・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 7~8年前、半導体事業の撤退を考えるよう指示された時。顧客の技術開発トップからは「支援するから撤退するな」と言われました。回避できましたが、1000人以上を削減することになり、つらかったです。

Q 最近買った物は

A 30年ほど前に買ったスピーカーが壊れ、自分で修理したついでにアンプやCDプレーヤーを買いました。

Q 時間があればしたいことは

A 朝早く車で山に行ってドライブを楽しみ、帰ったらミニカーを組み立てる。そんな暮らしをしたいです。


事業内容:カメラ、半導体製造用露光装置など光学機器の製造・販売

本社所在地:東京都港区

創業:1917年7月

資本金:654億円

従業員数:1万8437人(2022年3月末、連結)

業績(22年3月期〈IFRS〉、連結)

 売上収益:5396億円

 営業利益:499億円


 ■人物略歴

うまたて・としかず

 1956年福岡県出身。私立ラ・サール高校卒業。東京大学工学部卒業、東大大学院電気工学修士課程修了。80年4月日本光学工業(現ニコン)入社。2005年6月執行役員、12年6月常務執行役員を経て、19年4月から現職。66歳。


週刊エコノミスト2022年11月8日号掲載

編集長インタビュー 馬立稔和 ニコン社長

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