レジャーボートも電動化の時代 ヤマハが次世代システム披露
世界的な自動車のEV(電気自動車)化が急速に進んでいるなか、マリンボートの市場にも電動化の波が訪れようとしている。
ヤマハ発動機がこのほど国内マスコミに披露したのは「HARMO(ハルモ)」という次世代操船システム。ハルモはモーター駆動による電動推進システムと、ジョイスティックを使った独自の操船技術を統合したシステムで、従来のガソリンエンジンを使ったボートに比べて、静かで低速時の操作性に優れているのが大きな特徴だ。
開発の背景は2010年代に入って欧州を中心に環境規制が進み、水上でも温室効果ガスの削減が求められるようになったことがある。運河の多いオランダやイタリアなどでは低速遊覧船などでの用途が高まって市場が拡大しており、22年春から先行販売を開始している。 日本国内でも将来の導入に向けて20年8月から北海道小樽市の小樽運河クルーズの観光船に試作機を載せて実証運航をしている。
ハルモの電動駆動方式はユニークだ。モーターのシャフト(軸)にスクリューを付けるのではなく、スクリューと一体化した円形のリム(外縁)を回転させて推進力を発生させるリムドライブ方式を採用している。リム自体が回転磁石となっているため低速でも大きな推進力を発生し、しかもボート上からは駆動音がわからないほど静粛性が高い。
ジョイスティックで360度転回
駆動部の上部には電動操舵装置が組み合わされていて、コントロールは一般的なハンドル(舵輪)だけでなく、ジョイスティックによる簡単な操作でできる。スクリューと一体化したリムが左右に大きく動き、通常のボートに比べ舵角を2倍以上変えることができため、船の360度の転回もその場でスティックを軽くひねるだけで可能になる。またこのシステムを2機掛けすればスティックを横に倒すだけで横方向にも移動できるという。
バッテリーは48ボルトのリチウムイオン電池を搭載。出力は3・7㌔㍗で、最大出力での駆動時間を60~90分程度としている。低速域での推進力を重視したシステムということもあり、運河や港湾内などでの利用に向いている。プレジャーボートでの実用的な使い方としては、目的地までの高速移動はエンジン船外機、離着岸や目的地での低速・静粛走行はハルモ、というハイブリッドな組み合わせでの活用が想定できる。
モーター駆動の静粛性に驚き
発表会の会場となった横浜シーサイドマリーナ(横浜市)では実際にハルモを搭載したボートに乗って体感することができた。
ボートに乗り込んですぐに感じたのは、モーター駆動の静かさ。駆動音や振動音がほとんどなく聞こえるのは波の音だけで惰性でボートが移動している感覚だ。まさに海のEVというところか。
操作盤のジョイスティックを前に倒し込んでいくとボートは静かにしかも大きなトルクでしっかりと進んでいく。操作は直感的で、ジョイスティックを横に倒し続けると、ボートはほぼその場で360度回頭した。狭い航路や桟橋周辺で大いに力を発揮してくれそうだ。エンジン船外機だけで同じことをするの至難の業だろう。初心者が一番神経を使う着岸操作も格段に楽にできる。ジョイスティックの微調整の威力を大いに体感できた。
ヤマハは当面は実証運航を続けるが、プレジャーボートへの導入は、フィッシングでの活用などを想定して、2~3年後にエンジン船外機と組み合わせたハイブリッドな製品の開発を検討している。
(春日井章司・ジャーナリスト/藤枝克治・編集部)