経済・企業2023年の経営者

海外事業強化で“脱1本足打法”! 危機に強い会社に――佐藤達也・J-オイルミルズ社長

さとう・たつや 1959年神戸市出身。埼玉県立大宮高校、上智大学外国語学部卒。83年味の素入社。味の素ノースアメリカ社社長、味の素北米本部長などを経て、2021年4月からJ-オイルミルズ専務。同6月から取締役専務を経て、22年4月から現職。63歳。(Photo 中村琢磨:東京都中央区の本社で)
さとう・たつや 1959年神戸市出身。埼玉県立大宮高校、上智大学外国語学部卒。83年味の素入社。味の素ノースアメリカ社社長、味の素北米本部長などを経て、2021年4月からJ-オイルミルズ専務。同6月から取締役専務を経て、22年4月から現職。63歳。(Photo 中村琢磨:東京都中央区の本社で)

J-オイルミルズ社長 佐藤達也

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 2023年3月期は前期の赤字から回復し、営業利益10億円を見込んでいます。足元の経営環境はどうですか。

佐藤 油脂事業は穀物が原料です。産地の異常気象による価格高騰が川上で起こり、川下では海上運賃上昇やコロナ禍の行動制限などで需要が大きく落ちました。輪をかけたのがロシアのウクライナ侵攻です。ウクライナは世界最大のひまわり生産地であり、ひまわり油不足の玉突きで、別の穀物も不足しました。影響度大の事象が同時に起きる、歴史に一度もない事態に対処した2年間でした。

── コロナ禍では外食が減り、業務用が特に打撃を受けました。

佐藤 当社全体の売り上げの9割を占める油脂事業の中で、業務用は半分以上で、特に影響を受けました。家庭用の巣ごもり需要は一時的でした。さらに、コロナ禍でインバウンド(訪日外国人客)需要も激減しました。当社は油脂事業の他にスターチ(でんぷん)やマーガリンも製造しています。業務用マーガリンは土産用のお菓子用途が多く、打撃を受けました。

 現在は油脂事業が中心、かつ国内市場がほとんどの「一本足打法」ですので、他事業を育て、海外戦略も強化し、風が吹いても立てるようにすることが課題です。

── 油脂製品はどのような流れで作られるのですか。

佐藤 まず穀物の輸入から始まります。大半は米国やカナダから、大豆やキャノーラ(菜種)を輸入し、国内の工場で搾油、得られた原油を精製します。そして容器に詰めて市場に届けます。近年人気のオリーブオイルは、スペインなどから原油を輸入して瓶詰めしていますが、基本は国内で搾油する方が効率的です。

── 健康志向の高まりで、店頭に並ぶ油の種類も増えました。

佐藤 体内では作られない、生体の維持に必要な「必須脂肪酸」が含まれるアマニ油・えごま油や、悪玉コレステロールの吸収を抑える成分入りの油など多様化しています。加えて、当社では植物由来の原材料を使ったプラントベースフード(PBF)も取り扱っています。植物性チーズ「ビオライフ」などが主な商品です。

紙パックで伸ばす

── 環境対応にも力を入れています。

佐藤 家庭向け商品では、油脂製品では珍しい紙パックを採用しました。牛乳や酒と違い、油は紙にしみ出しやすいのが難点でしたが「酸素バリアフィルム」などをはさんだ特殊な5層構造の紙素材とすることで克服しました。同程度の容器で比べると、プラスチック利用を6割減らせます。光や酸素の遮断性も増し、賞味期限も長くなります。プラスチック製容器だと1年だった当社のキャノーラ油や純正ごま油は2年に延びました。2月下旬発売の新製品も含めた9種類から、順次拡大します。

── 業務用の特徴は。

佐藤 特許製法で作った「長徳」シリーズを出しています。例えば油で揚げ物をする際、酸化や着色による油の劣化を3割ほど遅らせ、用途によっては3割近く長く使えます。環境負荷を減らせるうえ、取り換え回数も減らせるのでコストダウンにもつながります。

 業務用というと飲食店のイメージが強いですが、マヨネーズやドレッシング、缶詰、お菓子など食品加工でも油は欠かせません。近年はスーパーの総菜コーナーやコンビニのカウンターで販売される揚げ物などにも使われます。

── 海外市場をどのように拡大しますか。

佐藤 海外の利益は全体の1%に満たないのですが、26年に7%、30年に15%にする目標を立てています。特にASEAN(東南アジア諸国連合)と北米(米国・カナダ)の2地域がターゲットです。マレーシアとタイの関係会社で作っているマーガリンやスターチを伸ばし、油脂事業も展開します。

 北米では、海外向け製品の、大豆から作ったシート状の加工食品「まめのりさん」が好評です。寿司(すし)で海苔(のり)の代替になります。サラダやタコスなどの別用途にも広げたいですね。健康食品向けの素材事業も伸びており、強化します。

── 穀物価格の高騰については、バイオエタノールとの競合も指摘されていますね。

佐藤 非可食の種からの搾油に取り組めないか、研究を進めています。当社の強みは「種子から搾れる」機能です。化石燃料削減に向け、燃料用途への貢献が事業として成り立てば、なお良いことです。

── 製造に関して、日清オイリオグループと搾油事業で業務提携しました。狙いや背景は。

佐藤 国内の安定供給と国際競争力の強化、環境対策の三つが目的です。油脂を製造する工程の中で、搾油事業だけを共有します。搾油工場の共有で維持更新投資の合理化を進め、競争力を確保するとともに、その費用を環境対策に回せます。10年後、20年後も、必要な油を消費者に届けていきます。

(構成=荒木涼子・編集部)

横顔

Q これまで仕事でピンチだったことは

A 2009年に赴任した米国での、医療向けアミノ酸事業の立て直しです。経験とは全く異なる分野で、試行錯誤の日々でした。現地の人々にも恵まれ、回復できました。振り返れば貴重な経験です。

Q 「好きな本」は

A 幅広く読みますが、最近記憶に残るのは『危機の指導者チャーチル』(新潮選書)です。欧州赴任中には知らなかった、戦争の背景などがよく分かり、新たな気づきを得ました。

Q 休日の過ごし方

A 読書や散歩、テレビでのスポーツ観戦です。メジャーリーグやNBA、NFLはひいきのチームを、欠かさず見ます。


事業内容:油脂やでんぷん、各種食品などの製造、加工、販売

本社所在地:東京都中央区

創立:2004年7月

資本金:100億円

従業員数:1361人(22年3月末、連結)

業績(22年3月期、連結)

 売上高:2015億円

 営業損益:2100万円の赤字


週刊エコノミスト2023年1月31日号掲載

編集長インタビュー 佐藤達也 J-オイルミルズ社長

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