国際・政治 FOCUS
米下院議長の“難産”が照らし出す米民主主義の苦悩 対立の力学から抜け出せず 安井明彦
有料記事
米国で、連邦下院議長の選出が、異例の難産となった。多数派である共和党の内紛からは、対立に陥りやすい米国の民主主義の悩みが浮かび上がる。
1月7日に米下院は、15回の投票の末に、共和党のマッカーシー氏を新議長に選んだ。下院が議長を1回の投票で選出できなかったのは、実に100年ぶりだ。
難産となったのは、下院で多数派の共和党に、目指す政策でのまとまりがないからだ。造反した保守強硬派の議員は、マッカーシー氏が大規模な歳出削減による財政赤字削減を約束するまで、議長人事に同意しなかった。
大胆な財政再建は、共和党の総意ではない。対中強硬派などには、国防費が削減対象になり得る点に、強い懸念がある。歳出削減に反対する民主党のバイデン政権との対決で、予算編成や債務上限の引き上げが遅れ、経済が混乱することを懸念する向きもある。
抵抗のための抵抗
造反議員の本気度も疑問だ。多くがトランプ前大統領の支持者だが、トランプ政権の時代には、財政赤字の拡大が容認されていた。財政再建に不可欠な公的年金や高齢者向け医療保険の削減にも、トランプ氏は後ろ向きだ。
造反議員の真の狙いは、抵抗勢力としての存在感を示す点にありそうだ。造反議員は、簡単に議長を解任できる手続きまで整えさせた。マッカーシー氏ににらみを利かせるもくろみだ。
政策論というより、“抵抗勢力であること”をよりどころにする造反議員の姿勢は、トランプ氏の系譜だ。トランプ氏は、技術革新や価値観の多様化に不安を覚える白人ブルーカラー層に呼応し、既存の秩序に立ち向かう政治家として支持を集めた。
たしかに米国には元来、抵抗勢力として不安や不満を追い風にしやすい土壌がある。米国の世論調査では、2000年代前半から、現状に不満を持つ回答が過半数を占め続けている。
…
残り538文字(全文1288文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める