経済・企業

インタビュー「成績は最下位、片付けもできない」似鳥昭雄ニトリホールディングス会長

 ニトリホールディングスの似鳥昭雄会長は70代になってから、自分が発達障害と知った。発達障害を公表した理由などを聞いた。(聞き手=桑子かつ代・編集部)

>>特集「社会を変える発達障害」はこちら

── 米国ではイーロン・マスク氏など自身が発達障害であることを公表する経営者が目立ちます。日本の企業トップの公表は少ない印象です。

似鳥 日本では公表に抵抗があると思います。発達障害が欠点だと思って悩み、隠したいという気持ちをお持ちなのかもしれません。もっとも、本人が発達障害であることをご存じでない方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。私も自分がそうだと知ったのはほんの2~3年前です。私の感覚では、日本でも少し変わっているといわれる経営者のうち10人に1人くらいはそうかもしれないと思います。

── ご自身が公表した理由は。

似鳥 発達障害で悩んでいる人の役に立ちたいと思いました。子供の頃に周りから白い目で見られたりして、つらい時があったとしても、「いつか成功できますよ」ということを、私自身が話せば説得力があると思います。

── どのような子供時代でしたか。

似鳥 私は小学校6年まで自分の名字が漢字で書けませんでした。クラスで書けないのは私だけで、よくバカにされました。人の話を理解して記憶するのも苦手で、飽きっぽい性格は今もあります。子供の時は勉強についていけず、成績が常にクラスの最下位でつらかったですね。仕方なしにカンニングしたこともありました。たたかれたり、いじめられたりもしました。

自分の強みを追求

── サラリーマン時代は。

似鳥 接客や会話が苦手で苦労しました。大学卒業後入社した広告会社で営業担当だった時には1件も契約が取れず、半年でクビになりました。相手の話が即座に理解できず、正しい返事ができなかったんですね。極度の緊張症で、汗が全身に出たり、言葉がつかえたりもしました。

── ニトリを創業してから仕事のやり方は変わりましたか。

似鳥 接客が苦手だったので、妻にしてもらい、私は商品を安く仕入れることに専念しました。メーカーがしぶったり、問屋に邪魔をされても、取引先を探して九州、さらに台湾まで行きました。当時、仕入れで海外に行くのは私だけでした。私は突き詰めてやる。そこは発達障害の良い特徴じゃないかな。突き詰めて考える癖もあるから、人並み以上にアイデアが次から次に出てくるんですね。

── 物事を忘れやすいという性格をどう克服しましたか。

似鳥 克服はしていません。苦手なことを直そうと思っても直らないので、あるがままです。片付けや整理整頓が苦手なので、会社の机は書類だらけで、秘書が時々片付けてくれます。財布もしょっちゅう落としていたので、洋服と財布をひもでつなげています。それでもポケットから落ちて、引きずって歩いてしまい、中のお金がそっくりなくなったりすることがたまにあるんです。

 毎日飲んでいる薬はポケットに入れています。老眼鏡は100円ショップで買ってるから20個くらいあって、落としたり、忘れたりしてもよいようにしています。仕事のことは思い立ったらすぐにメモにしっかり書いています。

 自分の長所を伸ばせばいいんです。どんどん外に出て、多くのことを経験して、その中から興味があることを追求していけばよいと思っています。発達障害は私のように感受性が強いのが特徴です。学校に行きづらい子供が家の中に引きこもらず、自然や芸術、何でも興味が持てそうなことを探せるように、東京大学先端科学技術研究センターと共同で、参加型のイベントなどを開催して応援しています。

にとり あきお

1944年生まれ。樺太(サハリン)出身。66年北海学園大学卒、67年似鳥家具店創業、10年ニトリホールディングス社長兼ニトリ社長、14年ニトリ会長(現任)。東京大学先端科学技術研究センターとともに、学校に馴染めない子供たちを対象に学びのプログラムを提供する活動もしている。


週刊エコノミスト2023年2月7日号掲載

発達障害 似鳥昭雄 ニトリホールディングス会長 成績は最下位、片付けもできない でも「苦手は克服しない」

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月9日号

EV失速の真相16 EV販売は企業ごとに明暗 利益を出せるのは3社程度■野辺継男20 高成長テスラに変調 HV好調のトヨタ株 5年ぶり時価総額逆転が視野に■遠藤功治22 最高益の真実 トヨタ、長期的に避けられない構造転換■中西孝樹25 中国市場 航続距離、コスト、充電性能 止まらない中国車の進化■湯 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事