反撃能力、半導体禁輸、核軍縮──欧米歴訪後の岸田首相に待つ難関 及川正也
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岸田文雄首相の新年は欧米歴訪で始まった。1月9日から1週間にわたってフランス、イタリア、英国、カナダ、米国を訪問。5月に広島市で開く主要7カ国首脳会議(G7サミット)に向けた事前調整を行うとともに、中国やロシアの脅威を念頭に改定した新たな国家安全保障戦略を説明した。
ハイライトは13日のバイデン米大統領との会談だった。「日米安保協力の深化」が焦点だったが、米国記者の関心は別にあった。副大統領当時の機密文書をバイデン氏が個人事務所に保管していた問題が発覚し、ホワイトハウス玄関で岸田首相を迎えるバイデン大統領に対し、「隠していたのか」と追及する声が上がった。
機密文書問題の余波
首相到着後、2人並んだ場面で飛んだ質問は、3人を死傷させた交通事故で禁錮3年の実刑判決を受けた米海軍大尉の処遇に関するものだった。「量刑が厳し過ぎる」などとして共和党議員らが釈放の請願をバイデン大統領に出している。いずれの質問とも両氏は聞き流したが、余波は会談後にも。
バイデン大統領は会談で「日米はかつてなく緊密な関係になった。米国は完全で完璧かつ徹底的に同盟にコミットする」と日米同盟の重要性を繰り返したが、それを内外に示す格好の場である共同記者会見は見送りに。皮膚がんの治療を受けたジル夫人が待つ「デラウェア州の自宅に帰る予定があった」(政府関係者)ためという。ただ、自宅からは別の機密文書が見つかり、首脳会談前日の12日にホワイトハウスが認めたばかりで、機密文書問題への対処を急いだのではないか、との臆測を呼んだ。
米国政治の争いに巻き込まれた形の首脳会談だったが、評価は上々だった。毎日新聞の世論調査では会談結果を「評価する」が60%に上った。岸田首相のリーダーシップをとりわけ評価したのは、会談に同席したキャンベル・インド太平洋調整官だ。後日、米シンクタンクで会談のやりとりの一部を紹介している。
岸田首相はウクライナ問題に取り組む欧州3カ国の首脳を激励してきたことを明かしたという。「日本がリーダーとしての役割を果たすことなど以前は想像できなかった。米国がお願いしなくても、日本は独自の道を歩み始めている」とキャンベル氏は語った。また、岸田首相がワシントン市内の大学で行った演説を「記憶している日本の指導者の演説で、最も先見性があった」とまで持ち上げた。
広島サミットのリスク
だが、首相のリーダーシップの真価が問われるのは、これからだろう。自民党関係者は、首相にとっての難関は3点あると指摘する。①保有を決めた敵基地攻撃能力(反撃能力)の導入、②米国と日欧の同盟との間で摩擦要因になっている対中先端半導体の禁輸問題への対応、③広島サミットで打ち出す核軍縮のあり方──だ。
反撃能力保有について、オースティン米国防長官は1月の日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)で「地域の抑止力を強…
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週刊エコノミスト
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