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子どもたちのヒーローだったウルトラマンが「大人を引きつけるキャラクター」に生まれ変わるまで

ウルトラセブン4Kリマスター版 ©円谷プロ
ウルトラセブン4Kリマスター版 ©円谷プロ

昨年1年間は映画界にとって、アニメ・キャラクター関連作品の存在感が際立つ年だった。年間興行成績1位に輝いた『ONE PIECE FILM RED』や『劇場版 呪術廻戦 0』といったお馴染みの作品に加え、新海誠監督の新作『すずめの戸締まり』も興行成績100億円を超えるなど、アニメ映画の興行収入は、過去最高額に迫る勢いだったという。

リアルさを追求し大ヒット『シン・ウルトラマン』

 キャラクター関連作品が上位を占めるランキングの中で存在感を示したのが、初代ウルトラマン(1966~67年・TBS系)のリメイク作品『シン・ウルトラマン』だ。手がけたのは庵野秀明、樋口真嗣の両氏。昨年5月に公開されると、世代を超えて大きな反響を呼び、特撮としては異例の興行収入40億円超の大ヒットを記録した。海外での上映も相次ぐなど、改めてウルトラマンシリーズの人気の根強さを浮き彫りにした。

2020年から、東京国際映画祭のジャパニーズ・アニメーション部門でプログラミング・アドバイザーを務める藤津亮太氏
2020年から、東京国際映画祭のジャパニーズ・アニメーション部門でプログラミング・アドバイザーを務める藤津亮太氏

 アニメ評論家で、2020年から東京国際映画祭のジャパニーズ・アニメーション部門でプログラミング・アドバイザーを務める藤津亮太氏は、「オリジナル作品のイメージと、それから想像しうる要素が上手く表現されている」と語る。

 作中では、重力のある地球でウルトラマンが飛べる理由が想像できる描写などが加わったほか、ウルトラマンの対応に迫られる防災庁・禍威獣特設対策室(略称:禍特対)の様子がリアルな視点を交えながら表現されている点も特徴だ。

「特撮を使ったヒーローものは、『子供っぽい』と言われることもありました。それゆえの面白さがある一方で、現実と地続き感のある設定や、より広いターゲットに対する説得力が求められる現代においては、それだけでは伝えられないものもあるんです」

シリーズ屈指の人気作『ウルトラセブン』を4Kで上映

『シン・ウルトラマン』のヒットの記憶も新しい昨年10月、東京・日比谷で開催された第35回東京国際映画祭では、シリーズの中でも高い人気を誇る『ウルトラセブン』(1967年・TBS系)の4Kリマスター版が上映された。

 この作品は昨年、『ウルトラセブン』の放送開始から55周年を記念して企画されたもので、上映後、モロボシ・ダン隊員役を演じた森次晃嗣らを招いてのトークショーが繰り広げられるなど、この映画祭は特撮ファンにとって価値の高いイベントとなった。

「最初に作品に触れた世代の皆さんが60代に差し掛かった現代においては、多くの人に知られた作品が一般化していくフェーズに入っているように感じています。そんな時代だからこそ、映画祭に出展された映像作品をより丁寧に扱い、専門性を深めたプログラムにすることを心がけました」(藤津氏)。

 今回は、「対話」「特撮」「ヒーロー」という3つのテーマに基づいて選ばれた12作品の上映とともにトークショーが行われ、作品制作に携わった当時のキャストなどを交えながら、『ウルトラセブン』が果たした歴史的な役割や意義などについても語られた。

 10月29日に「ヒーロー」の4作品が上映された後には、モロボシ・ダンを演じた俳優の森次晃嗣氏が登場し、「モロボシ・ダンは僕の分身であり、中心部。55年間背負うことの嬉しさと責任と辛さがあった」と、作品への思い入れを語った。

『ウルトラセブン』が特撮において果たした役割

 現在はシリーズ屈指の人気を誇り、これまでに数々のリメイク作品も発表されてきた

『ウルトラセブン』(1967年・TBS系)だが、放送開始当初は、視聴率が伸び悩んだ時期もあったという。

「ウルトラセブンは、前番組の『ウルトラマン』よりも大人びた内容でした。自然現象の一要素として怪獣が描かれた『ウルトラマン』に対し、地球侵略を企てる宇宙人たちにウルトラ警備隊が対峙するという構図が生むカタルシスの薄さも、当時の子供達が没入しにくい要因だったのではないかという指摘もあります」(藤津氏)。

 だが、緻密に作り込まれた作品は、時代の流れとともに再評価され、人気作品となった。1980年以降に急成長を遂げたレンタルビデオや、ソフビ人形といったグッズ展開もそれを加速させた。

4K上映で明らかになる鮮明な情景描写

 当時撮影されたアナログフィルムを元に、リマスタリングされた今回の4K上映では、これまで表現できなかったさまざまなことが表現できるようになった。その一つが、『ウルトラセブン』で多く見られるナイトシーンの描写だ。最新の技術を駆使したリマスターによって、放映当時のブラウン管テレビでは伝えることが難しかった暗部の動きが鮮明に映し出され、視聴者が作品に対して抱く印象を大きく変えることになった。

©円谷プロ
©円谷プロ

「これまでは伝えることが難しかった細かな描写が明らかになったという意味でも、4K動画で上映した意味は大きい。大変綺麗に映し出される映像を見て、技術の進化に改めて驚かされましたし、映画館で見る意味のある作品だったと思います」と、藤津氏も今回開催されたイベントの手応えを口にする。

アニメ・キャラクター映画の未来

 昨年末に公開された『THE FIRST SLAM DUNK』が興行成績76億円を突破するなど、2023年も引き続きアニメ・キャラクター作品が映画業界の牽引役を担う様相を見せている。

 藤津氏は日本のアニメ映画が歩んだこの10年間を、「アニメ映画を見ることが普通になった10年だった」と振り返る。「テレビアニメが放映されるようになった1960年代は、アニメは『子供が見るもの』でしたが、当時の子供達もいまでは60代半ばを迎え、アニメが子供だけのものではなくなりました。MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のような素晴らしい絵の表現を取り入れた作品のヒットもあって、かつては子供っぽいと思われていたヒーローものも、アプローチ次第で広い層の観客を得られることがわかった。また“ライブの価値”が再発見されたことで、良い音と素晴らしい絵画の表現を楽しみたいという人たちが増えたことも、大人を引きつける理由になっているかもしれません」。

 海外においても、日本のアニメ・キャラクターへの支持は根強い。「かつて、日系人の多いハワイで特撮作品が楽しまれているということはありましたが、様々な状況を経て、現在は動画配信などにより、海外でも日本のアニメーションを手軽に楽しんでもらえる流れが広まりました。そして、日本のコンテンツの影響を受けた海外のクリエイターが“日本っぽいアニメスタイル”を目指すようにもなりました。日本のアニメやキャラクターが、一つの“ジャンル”に変わった10年間だったと思います」。

 藤津氏は、日本のアニメ・キャラクターの歩む今後について、新たな展開を予想する。

「大衆娯楽映画は、作品が生まれた瞬間はその大衆性故に軽んじられる傾向にあります。でも、作品の影響を受けた人々が成長し、その思いが作品と混ざり合うことで、新たな文化が作られていくのです。昨年ヒットした『シン・ウルトラマン』のように、作品を愛したファンによって醸成されたキャラクター文化が、次の世代に広まっていくフェーズに突入しているのではないでしょうか」

(取材・文 白鳥純一)

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