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〝たばこハームリダクション〟をテーマにセミナー開催-最新の科学的エビデンスを交え 加熱式たばこの健康影響を 専門家が評価- [Medical Report]

たばこのハームリダクション(喫煙の害の低減)に取り組むフィリップ モリス ジャパンは昨年9月から今年1月まで、3回にわたって東京都内で「たばこと健康と科学の最前線」と題するメディカル&サイエンスセミナーを開催した。この分野で活躍する世界第一線の医師による講演を中心に、3回のセミナーの内容をまとめて紹介する。

臨床試験の結果が示す IQOSの有害成分削減効果  

ハームリダクションとは健康被害や危険をもたらす行動や習慣をすぐにやめることができない場合、引き起こされる健康や経済的な悪影響をできるだけ少なくしようという考え方。飲酒やギャンブル依存などで、この考えに基づいた試みが世界的に進んでいる。フィリップ モリス ジャパンは2016年、「当社は紙巻たばこから脱却しようとしています」という宣言を発表。これ以降、「たばこのハームリダクション(喫煙の害の低減)」に取り組んでおり、セミナーはこの一環として開催された。22年9月8日には第1回として「加熱式たばこ(HTP)は公衆衛生の向上と増進に寄与し得るのか」を開催。フィリップ モリス インターナショナルの飯田朋子ディレクター(科学渉外アジア担当)が講演した。飯田氏は「喫煙は重大な疾患の原因だが、多くの人が喫煙を続けている。禁煙などの従来の方法だけでなく、紙巻たばこの代替になる有害性の低い、よりよい選択肢を提供するのが我々の使命」と説明。その代替品が加熱式たばこIQOS(アイコス)だ。

フィリップ モリス インターナショナル ディレクター(科学渉外アジア担当)飯田朋子氏
フィリップ モリス インターナショナル ディレクター(科学渉外アジア担当)飯田朋子氏

 IQOSはたばこの葉を加熱し、たばこベイパー(蒸気)を発生させ、たばこの葉本来の味や香りを楽しむ製品。世界約70の国と地域で販売され、IQOSなどに切り替えて、紙巻たばこをやめた人は約1320万人にのぼる。紙巻たばこを燃焼(800度以上)させたときに発生する煙には6000種以上の化学物質があり、そのうち約100種が有害性成分とされる。これに対し、加熱式たばこは、たばこ葉が燃焼に至らない大幅に低い温度で加熱されるため、同社によるとIQOSは紙巻たばこに比べて有害性成分の90~95%を低減するという。体内に吸収される有害性成分の量も同社による90日間の臨床試験の結果、IQOSグループは禁煙グループと同様に減ったという。飯田氏は「燃焼しないことで有害性成分が減り、体内に取り込まれる有害性成分も減る。今後はIQOSに切り替えたときの長期的影響や疾患リスクを調べていく」と話した。

肺がん予防でも注目される たばこのハームリダクション

ロンドン腫瘍学クリニック理事長 がん専門医 ピーター・ハーパー氏
ロンドン腫瘍学クリニック理事長 がん専門医 ピーター・ハーパー氏

 

第2回は10月25日に「がん予防におけるたばこハームリダクション」をテーマに実施され、ロンドン腫瘍学クリニック理事長で、がん専門医のピーター・ハーパー氏が講演した。ハーパー氏は「肺がんの治療は難しい。だから予防が重要になる」と強調。そのうえで、肺がん予防では禁煙が必要だとした。しかし、禁煙は難しく、日本では禁煙治療終了9か月後に禁煙を続けている人は27%程度に過ぎないという調査結果が報告されており、海外においては治療1年後には禁煙を続けている人は8%程度、4年後には6%程度になってしまうとした。この傾向はがん患者でも同じで、「今禁煙すれば、よくなる」と言われても喫煙を続ける人が多いという。そこで注目されるのが、ハームリダクションという考え方だと指摘した。  日本ではたばこのハームリダクションにより、紙巻たばこの消費量が2016年からの5年間で40%以上も下がったとし、素晴らしいと評価。IQOSは燃焼を伴わないため、紙巻たばこより有害性成分の発生を低減でき、IQOSに代えた喫煙者は、有害性成分への曝露を少なくできるとした。最後に「現時点ではリスク低減は実証されていないが、相対的にリスクを削減できる、という結果になることが予想される」とまとめた。

加熱式たばこへの切り替え COPDの増悪低減に期待

カターニア大学 内科教授 呼吸器疾患専門家リカルド・ポローザ氏
カターニア大学 内科教授 呼吸器疾患専門家リカルド・ポローザ氏

 第3回は23年1月27日に「COPD患者におけるたばこハームリダクション」と題して開催された。COPDは慢性閉塞性肺疾患とも呼ばれ、国内の推定患者は500万人を超え、最大の原因が喫煙とされる。講演したイタリアのカターニア大学の内科教授で、呼吸器疾患が専門のリカルド・ポローザ氏は最初に、「COPD問題の解決策は禁煙だ」と強調。しかし、禁煙クリニックも開業している経験から、「たばこをやめられない人の課題はよくわかっている。そのための戦略が必要で、戦略のひとつが加熱式たばこだ」と訴えた。

 ポローザ氏は2017年から、加熱式たばこのリスクと利益を検討する臨床研究に取り組んだ。COPD患者48人を、加熱式たばこに切り替える24人と紙巻たばこを続ける24人の2グループに分けて、患者の主観的QOL(生活の質)、呼吸機能、COPDの増悪の頻度などについて、3年間追跡調査した。その結果、QOLスコアでみると、加熱式たばこグループは臨床的意義のある最小変化量を超えて改善された。また、増悪頻度は、紙巻たばこグループに変化はなかったが、加熱式たばこグループは切り替えてから1年後には、年間増悪が約40%減ったという。ポローザ氏は「COPD患者において、加熱式たばこへの切り替えはメリットがある。増悪が減った理由は喫煙で発生する有害性成分による肺の負荷が減ったからだろう。禁煙すると増悪が減るなどの効果が出るが、加熱式たばこでも禁煙と同様の効果が出たと解釈できる」と説明した。

さらに、「日本ではIQOS発売以降、紙巻たばこ消費量が大きく減った。COPD患者の入院率が減少し、心筋梗塞も減っている。この関連については、まだ疫学的に証明できる段階ではないが、革命的なことだ。イタリアでもIQOS発売以降、同様のことが起きている。欧州の国々も日本を見習うべきだ」と話した。

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