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経済・企業 2023年の経営者

世界で戦える日本発の化学メーカーへ――高橋秀仁・レゾナック・ホールディングス社長

Photo 武市公孝:東京都港区の本社で
Photo 武市公孝:東京都港区の本社で

レゾナック・ホールディングス社長 高橋秀仁

 Interviewer 秋本裕子(本誌編集長)

>>連載「2023年の経営者」はこちら

── 昭和電工が2020年に日立化成を買収し、今年1月にレゾナック・ホールディングスになりました。このドラスチックな変化の狙いは。

高橋 私が15年に昭和電工に入社した当時、ポートフォリオは収益性が低く、安定性も低く、成長事業を持っていませんでした。この課題を解決しないと、将来的に経営が行き詰まる危機感がありました。そこで、まず世界2位の黒鉛電極メーカーである独SGLカーボン社の事業を買収しました。昭和電工は世界3位でしたので、この買収で世界一の黒鉛電極メーカーとなり、収益性の課題はある程度クリアできました。

── 次の成長事業が日立化成だったわけですね。

高橋 たまたま日立製作所が半導体材料に強みを持つ日立化成を売却するという話が出たので、買収に踏み切りました。

── 一方で、事業の売却も進めました。

高橋 日立化成を買収したら、次は成長しない事業を売却し、借金を返す必要がありました。常にポートフォリオを見直さないと、コングロマリットディスカウント(多くの事業を抱える複合企業の企業価値が、事業ごとの企業価値の合計よりも小さくなること)が必ず起こります。それを最低限に抑えるためには、株主目線で売り買いを繰り返し、ポートフォリオを入れ替える必要があります。

── ポートフォリオ入れ替えの基準はどういうものですか。

高橋 三つの評価基準があります。一つ目は採算性、二つ目は会社の戦略に適合しているか、そして三つ目は当社がベストオーナーであるかです。この三つの基準に照らし合わせて、既にアルミ缶事業やセラミック事業など8事業を売却しました。

── 今後も会社の形は変わっていくのでしょうか。

高橋 当社は今までの石油化学を中心とした総合化学メーカーから、日本発の世界で戦えるスペシャリティケミカル(機能性化学)メーカーになるという意気込みを持っています。将来のポートフォリオを考えると、変わっていくことは自明だと思っています。

── もともと昭和電工にあった技術と新たに獲得した日立化成の技術の相乗効果はどこにみられますか。

高橋 旧昭和電工の川崎事業所には、有機化学の分子設計ができる研究者が140人いますが、それまでの製品ラインでは、彼らの能力を生かし切れるところがありませんでした。一方で、旧日立化成も昔は分子設計をやっていましたが、半導体の顧客の対応に追われているうちに分子設計をやる余裕がなくなり、既存の材料を混ぜ合わせて機能を発揮させることに工数をかけるようになりました。今回の統合で、旧日立化成の研究者は自分たちができなくなったことを旧昭和電工の研究者に頼めるようになり、両者のつながりが生きるシナジー案件が既に100件ほど上がってきています。

5年で2500億円投資

── 半導体向け製品の強みは。

高橋 当社の半導体材料の売上高は世界3位です。半導体材料の売上高ではウエハー(基板)メーカーが上位を占めますが、上位5社の中でウエハーを持っていないのは当社だけです。また、半導体は回路を形成する前工程とチップとして製品にする後工程に分かれますが、後工程材料に限れば、圧倒的に世界一です。半導体の後工程の主要材料は10~15種類ある中で当社は7~8種類をそろえ、それぞれ世界シェア1位か2位で、技術的にも強みを持っています。

── 一方で半導体市場は変動が激しく、23年前半の市況は良くないといわれています。リスクをどう見ますか。

高橋 半導体市場はサイクルがありますが、トレンドは右肩上がりです。サイクルは山があって谷があるが、次の山は前の山より絶対に大きくなります。谷の時に投資のブレーキを踏むと、次の山の時に生産能力が足りなくなります。だから投資はサイクルが落ちても、信じてやるしかない事業です。

── どのくらいの投資を計画しているのですか。

高橋 半導体材料は日本が最後に勝てる分野だと思っているので、集中投資します。22年からの5年間で2500億円を計画しています。生産能力の増強には時間がかかるので、次のサイクルの山に間に合うイメージです。

── 中長期計画では、半導体・電子材料の売上比率を21年の31%から30年に45%に引き上げる目標を立てています。

高橋 金額ベースでは、3800億円から8500億円に引き上げます。M&Aは加味していません。半導体の後工程でチップが大型化・多層化すると、使用される材料が増えます。そのため、30年までの半導体市場の年平均成長率が7%になるなら、当社は自然体でも10%は成長できるとみています。

(構成=村田晋一郎・編集部)

横顔

Q 30代はどんなビジネスパーソンでしたか

A 銀行員として、前半はシンガポール、後半は米国に赴任しました。日本のモノづくりのすごさと、経営のまずさを目の当たりにして、日本の製造業の経営者を志しました。

Q 「私を変えた本」は

A 19歳の頃にミルトン・フリードマンの『選択の自由』(共著)を読んで、ニューヨークに行き、競争が進化の源泉だと思いました。一方で、40歳ごろにレイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読んで、環境と経済活動のバランスを意識するようになりました。

Q 休日の過ごし方

A ジムで運動や、テレビでスポーツ観戦をしています。


事業内容:半導体・電子材料、石油化学材料などの開発・製造・販売

本社所在地:東京都港区

設立:1939年6月

資本金:1821億円

従業員数:2万6295人(2022年6月現在、連結)

業績(21年12月期、連結)

 売上高:1兆4196億円

 営業利益:872億円


 ■人物略歴

たかはし・ひでひと

 1962年東京都出身。私立駒場東邦高校卒業、東京大学経済学部卒業。86年三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)入行、2002年日本ゼネラルエレクトリック入社。外資系企業を経て、15年昭和電工入社。常務執行役員などを経て、22年1月に社長。23年1月レゾナック・ホールディングス発足に伴い現職。60歳。


週刊エコノミスト2023年2月28日号掲載

編集長インタビュー 高橋秀仁 レゾナック・ホールディングス社長

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