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国際・政治 ウクライナ侵攻1年

インタビュー「日本は世界にビジョンを示せているか」寺島実郎・日本総合研究所会長

 ウクライナ戦争を経て、世界秩序はどこへ向かうのか。寺島実郎氏に聞いた。(聞き手=荒木涼子/白鳥達哉・編集部)

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── ウクライナ侵攻1年をどう見るか。

■プーチン露大統領の本質、思考回路が見えた1年だった。プーチン氏は民主主義や人道主義をあざ笑うかのように否定し、19世紀の帝国主義時代へと回帰し、「自国の権益を確保するためなら戦争で領土を拡大することも正義」と言わんばかりの価値観に逆戻りしている。

 もし彼が、「万国の労働者よ、団結せよ」とでも言うように、たとえ建前でも「資本主義に虐げられる弱者を救済するために立ち上がった」など、資本主義の構造的矛盾を突いたメッセージを放って侵攻していたら、資本主義国家に一定の動揺を与えていた可能性はあったかもしれない。だが、彼は実際は「ネオナチと戦っている」などと言い、共鳴しているのはかつてロシア帝国を率いた、北欧との戦いで勝利を挙げたピョートル大帝や、クリミア半島を併合したエカテリーナ2世で、「愛国と犠牲」を掲げる偏狭なナショナリズムによって凝り固まった思想だ。世界に掲げて正義を語りうる、普遍的な枠組みの人間ではなく、100年前にタイムスリップした男だといえる。

── 今後の世界をどう見るか。

■ロシアという国は、偏狭なナショナリズムに埋没するうちに、孤立と衰退に入ることは間違いない。中国もピークアウトした。中国経済の成長は、世界に7000万人いるとされる華人華僑圏のネットワークが支えていたが、中国の香港や台湾への強権的姿勢を見て、彼らの心は今離れ始めた。加えて、東南アジアへ進出する一方、それらの国々で中国への警戒心や嫌悪感も高まる。

 世界をけん引していく存在たりうるかを見極める視点の一つとして、掲げている理念が、「世界の若者の心をときめかせているか」がある。計算、打算で動かず、「一銭ももらわなくても正義のために戦う」という心を起こさせることこそ一番警戒しなくてはならないが、現在の中国は世界中の若者の心をときめかすどころか、嫌悪感と警戒心を与えており、世界をけん引していく存在とはなりえない。

 では米国はどうか。世界の警察官でもなければ、唯一の超大国でもない方向に向かっていることは間違いない。しかし、衰亡するかというとそうでもない。なぜなら、米国国内は多国籍社会で、シリコンバレーもウォールストリートも、ユダヤ系、アジア系、中東系などマイノリティーの人たちを活躍させる土壌がある。だからITビッグファイブが生まれたように、常にイノベーションを生み出す力の源泉がある。

 ただし国家としての米国が、世界のリーダーとして束ねる世界秩序が揺らいできたことは間違いない。そうなったときに、キーワードは(中国や途上・新興国からなる)「グローバルサウス」であり、「全員参加型秩序」だ。

インドを見習え

── どういうものか。

■よく、国連が機能していないと批判する人がいるが、機能していないのは常任理事国の五大国主義で、国連総会では侵攻したロシアに厳しい決議をした。その後の人権理事会などで、途上国を中心に棄権国が増えたなどと指摘されるが、彼らが放つメッセージは「世界を単純に二極に分断するな」だ。

 その中でしたたかに動いている国の一つがインドだ。中国が中央アジアなどと創設した地域協力枠組み「上海協力機構(SCO)」にも、中国を封じ込めようと米国が主導する新たな経済連携「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」にも顔を出し、一体本気で何を考えているのだろうと思うが、インドは全て本気で考えている。今や「シリコンバレーよりベンガルールだ」とまで言われるようになった。

── 日本がとるべき道は。

■まず、日本が大きな歴史の流れの中で今、どこにいるのかを捉える必要がある。20世紀以降の約120年間、日本は不思議な立ち位置を歩んできた。初めは植民地にされかねない中で、日英同盟に支えられた約20年間があった。間に戦争を挟んでダッチロールし、戦後は奇跡的な経済復興を遂げ、米国との同盟は70年を超える。120年間のうち約90年間をアングロサクソンとの同盟で生きてきた。そんなアジアの国は他にはない。

 問題は、これからも同盟外交の構図が続くと思い込んでいることだ。主要7カ国唯一のアジアの国で、中露を抑え込む立場にあるという自己イメージが失敗の元になる。ロシアと国境を接する国として「お隣なんだから平和的に協力したい」「将来ロシアが国際社会に帰ってくるのを待っている」と、メッセージを発し続けることが重要だ。

 先で述べた「全員参加型秩序」では、理念こそ最大の現実的戦略になる。「やはり日本はよく考えている」と、尊敬されるような構想を、日本は一つでも示しているのだろうか。

 世界の国内総生産(GDP)に占める日本の比重はピーク時1994年には約18%だったが、昨年4%になった。そんな状況下でも防衛費倍増などの話がある。間違っても「貧国強兵」に陥ってはいけない。健全な危機感を持って、日本を見つめ直さないといけない。


 ■人物略歴

てらしま・じつろう

 1947年生まれ。73年早稲田大学大学院修了、同年三井物産入社。2002年早稲田大学大学院教授、06年三井物産常務執行役員等を経て、16年4月から日本総合研究所会長。多摩大学学長も務める。


週刊エコノミスト2023年2月28日号掲載

ウクライナ侵攻1年 戦争後の世界 インタビュー 寺島実郎 「グローバルサウス」が台頭 世界は全員参加型秩序に

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