政権再浮揚を妨げる失点の連鎖 「黄金の3年間」は誰のためか 松尾良
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どうもこのところ岸田政権にはいい話がない。唐突な発言やスキャンダルなどへの批判がやまず、内閣支持率は低空飛行のままだ。一つをしのいでも、またすぐに次が出てくるといった調子である。連打をくらいながら、よろよろと試合を続けるボクサーのような様相になっている。
岸田文雄首相が年頭に宣言した「異次元の少子化対策」の、その後の推移が象徴的だ。国民の気分が改まる暦の変わり目に、新しいイシューを掲げることで、昨年後半の政治的な窮状から局面を転換したい、という「邪念」が透けて見えた。
「異次元」の邪念と迷走
少子化対策の争点化からすぐに思い浮かぶのは、故安倍晋三氏が首相の座にあった2017年のことだ。
森友・加計両学園問題や東京都議選の歴史的惨敗により、当時の安倍政権は追い込まれていた。その秋に安倍氏は、19年に予定された消費増税分の一部について、教育無償化などに使い道を変更すると表明した。少子高齢化は北朝鮮問題と並ぶ「国難」だと訴え、衆院を解散して勝利した。
その国難は今も続いている。国難突破というあの時の約束が何だったのか、誰も検証していない。安倍政権が何度も掛け替えた看板政策の一つ、地方創生についても同様である。
話を戻すと、岸田首相は「異次元の少子化対策とは何か」、つまり本気度と具体策について問われることになった。その答えに説得力があれば支持率回復にもつながったはずだが、むしろその後、首相の姿勢がどんどんぼやけたことで、「やはり口先だけか」と失望を招きつつある。
「従来とは次元の異なる少子化対策を実現する」。まず1月23日の施政方針演説で、首相は早々と後ずさりした。「『異次元』と意味は同じだ」と政権幹部は釈明したが、表現が弱含みになったのは明白だ。「異次元」発言が予想以上に騒がれたため、記事の見出しに取りにくくしようとしたのでは、と意地悪な声も漏れた。
助け舟とばかり、自民党の茂木敏充幹事長が児童手当の所得制限撤廃を国会で呼びかけたが、そこにも落とし穴が待っていた。旧民主党政権が一時導入した所得制限のない子ども手当を、当時の野党・自民党が「バラマキだ」と攻撃した前科が、同時によみがえってきたのである。
13年前に国会で「愚か者めが」とヤジを飛ばした丸川珠代元五輪担当相とともに、首相は「反省すべきは反省する」(1月31日)と陳謝させられた。
半月後、勇み足とおぼしき首相答弁がさらなる混乱を招いた。「家族関係社会支出は20年度の段階で国内総生産(GDP)比2%を実現した。それをさらに倍増しようではないか」(2月15日)。子ども関連予算の倍増とは何かと問われて、首相はそう明言した。ところが、女房役の松野博一官房長官に「どこをベースに倍増するかは、まだ整理中だ」とあっさり修正されてしまった。
きわめつけは、出生率がV字回復すれば予算倍増が実現されるという政権幹部の発言だ。無策…
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週刊エコノミスト
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