消える「みどりの窓口」 省力化で進むチケットレス 土屋武之
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鉄道会社にとって、コロナ禍は急激な少子高齢化と同等の需要減少を引き起こした。ネット予約、キャッシュレスの普及を背景に鉄道各社は省力化を進めている。
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新型コロナウイルス感染症の流行も“出口”が見え、大幅な減収減益に見舞われた鉄道各社も息を吹き返しつつある。しかし、テレワークの普及による通勤客の減少をはじめコロナの傷痕は深く、何もかもが以前と同様とはいかない。
少子高齢化社会は間違いなく将来の就業人口や通学の学生、つまりは利用客を減らす。それがコロナ禍によって急激な利用客減が各社を直撃。10年後、20年後と予想していた世界が、わずかな期間のうちに眼前に出現してしまった。鉄道は線路や駅などに一定の固定費がかかる装置産業だけに、経営改善のためには、難しいなりに経費節減へ向かわなければならない。そこで図られたのが人件費を減らし、人手不足にも対応するための省力化だ。
人手を代替するインターネットやスマートフォン、さらにはキャッシュレスサービスが完全に普及し切ったといってもよく、時代に取り残されないためにも、積極的な導入が社会的にも求められるであろう。
「無人化」が進む駅
現代社会においては、人件費は企業経営において大きな部分を占める。鉄道もかつては列車の運行や駅に多くの人手を割かねばならなかった。財政難に陥った1970年代以降の国鉄時代、合理化の名の下に人員削減が行われ、駅の無人化が進んだ。
87年の国鉄の終焉(しゅうえん)とJR各社の発足から36年。現在は時代背景が異なり、再び進行しつつある駅の無人化もまた、以前とは事情が異なる。大都市圏では既に駅に残る係員は案内・保安と長距離きっぷの発売要員程度になっているが、ここにもメスが入りつつある。
JR東日本が先行しているように、インターネット予約の普及によって、中小駅に始まり、かなりの大規模駅にいたるまで、「みどりの窓口」など有人の窓口が自動券売機へと急速に置き換えられている。複雑な経路の乗車券や、証明書の確認を要する学割、通学定期券など一部、機械では対応し切れていない部分も存在はするが、単純に新幹線で往復する程度の乗車券・特急券なら、駅まで行かずとも自宅でパソコンやスマートフォンから予約し、クレジットカードによる決済ができる時代になった。さらに、チケットレスサービスの普及が拍車を掛けた。JR東海、JR西日本、JR九州が展開する「EX-IC」が代表例だが、きっぷの発券すら不要の時代が訪れている。
これらによって、みどりの窓口を訪れる利用客は大きく減った。並ぶ客に対して応援の係員が声をかけ、自動券売機で発売できるきっぷなら券売機へと誘導する姿も首都圏ではよく見受けられた。こうした“地ならし”の段階がほぼ終わり、利用客サイドの慣れも進んで、本格的な人員削減へと向かっている。誰もが持つスマホを活用すれば利便性を向上できる一方、鉄道会社は最低限必要な数の要員の確保もできる。今後、駅に残るのは、どうしても対面かつ現金できっぷを購入する、インターネットに不慣れな客に対応する最小限の係員だけになるだ…
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週刊エコノミスト
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