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アバターが接客 未来のコンビニ「グリーンローソン」の可能性 松崎隆司

レジには人がおらず、アバターが対応する
レジには人がおらず、アバターが対応する

 大手コンビニのローソンはこのほど、人手不足や食品の廃棄ロス、プラスチックごみなどコンビニが抱える課題の解決を進めていくため、東京都豊島区のJR大塚駅北口に近未来店舗「グリーンローソン」をオープンした。

 最大の特徴は、レジなどに人はおらずモニターに映し出される店員のアバター(分身)が、遠隔地からオンラインで接客する仕組み。コンビニは近年、レジの人員確保などが困難になっており、店員として店に出勤しなくても働ける環境を用意して人手不足の解消を狙う。

 筆者が実際に店内に足を踏み入れると、アバターが「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。アバターを映し出すモニターは入口を入ったところとセルフレジの一角に置かれていて、女性スタッフのアバター「あおい」と、男性の「そらと」が代わる代わる接客する。この日、あおいは実際には兵庫県淡路島にいる女性(30)が遠隔対応していた。

「モニターの上部についているカメラを通してお客様の動作などを見ているので、セルフレジの操作がうまくいっているかなどがその場ですぐにわかる。最初はロボットかAI(人工知能)だと思って、決まった内容しか話せないんじゃないかと不安に感じる人もいるが、会話をしているうちに、実際の人間が対応していることが分かり、安心するようだ」

 アバターは本来、店舗案内やセルフレジの使い方を説明するために設置されているのだが、子供たちには人気で、店内には下校途中の近所の小学生がアバターの前に集まっていた。

「あおい!じゃんけんしようぜ。今日は負けないからな」

 子どもだけでなくアバターとの雑談を楽しみにやってくる客も少なくないという。

どこでも、誰でも働ける

 ローソンがアバターを導入しようと考えたのは2022年4月ごろから。大阪大学発のアバター事業のベンチャー「AVITA」と協力し、同年9月の記者会見で構想を発表している。ローソン執行役員で事業サポート本部長の月生田(つきうだ)和樹氏は、「アバターを利用すれば、老若男女、遠隔地からでも働くことができる。障害を持っていて店舗に来られない人でも仕事ができる。人手不足解消の有力な手段だと期待している」と話す。

食品ロスを減らすため常温弁当を置かず冷凍弁当に力を入れる
食品ロスを減らすため常温弁当を置かず冷凍弁当に力を入れる

 10~60代を対象にアバターオペレーター30人を募集したところ400人が応募してきた。その反響の大きさに担当者も驚いているという。

 オペレーターは1カ月程度の研修したのちにグリーンローソンで働く。すでにオペレーターを体験した人たちからは「子供がいても働ける」「遠隔地に住んでいても仕事ができる」「発達障害で対面で人と接するのは苦手だが、アバターを通してなら楽しく働ける」といった声があがっている。

「将来的には人手が特に不足している深夜の時間帯に複数店を見てもらえるような仕組みも考えたい」(月生田氏)といい、23年度中には東京・大阪の10店舗で働くアバターオペレーター50人、25年までに1000人採用する予定だという。

 グリーンローソンでの取り組みはアバターだけではない。コンビニ業界が抱える「食品ロス」や「プラスチック」の削減などの取り組みを実際に店舗で試し、実用化に向けて課題を解決していくのがこの店舗の目的だ。

 大塚駅北口の店舗の商品数は約4200点。通常店とほぼ同規模だが、商品ロスを減らすために常温やチルドの弁当をやめ、冷凍弁当と店内調理「まちかど厨房」の弁当を販売している。「常温やチルド弁当をなくしたことで、食品ロスがほとんどなくなった」と、グリーンローソンの取り組み全般を指揮するインキュベーションカンパニー・プレジデントの吉田泰治氏はいう。

 さらに牛乳などが置いてある棚には、通常の店舗では設置していない扉を付け、保温効果を高めて節電を図っている。30~40%程度の節電ができるという。

本部と加盟店の対立を克服する

 そもそもローソンはなぜグリーンローソンのような取り組みを始めたのか。コンビニ業界では長年、「食品ロス」「24時間営業」「人手不足」など構造的な問題が横たわり、コンビニオーナーからも悲鳴が上がっていた。大手コンビニの中にはオーナーが本部に対して怒りを爆発させ、訴訟に発展するケースもあった。

 そのような中で2019年には経済産業省が大手8社のトップを集めて意見交換会を行い、コンビニ各社は同4月に改善に向けた行動計画を発表した。ローソンも施策を強化し、「省力化」「食品ロスの解消」「電力の削減」への取り組みや、「セルフレジ」「アバター」の開発などに取り組んできた。

「こうした施策を実現していくためには、一つの店舗でまとめて検証する必要があると竹増貞信社長は考え、1年ほど前からフランチャイズ店舗のオーナーに相談した」(吉田氏)

 相談を受けたオーナーの一人が大塚駅北口店など都内に30店舗を持つ前田宏氏だった。「竹増社長は長年現場の実状を気にかけていて、言葉を交わすうちに親しくなった。加盟店と本部はビジネスパートナーではあるが、立場は違う。オーナーがどんな思いで仕事をしているのかを伝えるのも私の仕事。例えば、映画『君の名は』で、ローソンがスポンサーになったとき、映画に登場したローソンではすでに販売が終了した商品が並んでいた。そんな話をしながらうちの社員と飲んでる最中に竹増社長にメールをしたら、居酒屋まで飛んで来てくれた」(前田氏)

従来店舗とは違う華やかな外装のグリーンローソン
従来店舗とは違う華やかな外装のグリーンローソン

 竹増社長が「グリーンローソン」のアイデアを前田氏にぶつけたのは22年1月頃だったという。「僕も竹増社長の考えに賛同したし、やるんだったら一気にやった方がいいと提案した。プラスチック削減のためフォークやスプーン、あるいは割りばしなどカトラリーの配布も最初の段階から一気にやめようと提案した」(前田氏)

 ローソン本部がさまざまな店舗候補を検討した結果、実証店にふさわしいと浮上したのが大塚駅北口の「ナチュラルローソン」の店舗だった。「大塚駅前は商業施設と住宅街が密集し、老若男女、それぞれの世代が住んでいるので実験に適している」(吉田氏)

クレーム殺到を恐れていたが

 店舗を22年11月28日にオープンしてからすでに3カ月がたつ。どのような成果が上がっているのか。

 前田氏は「売り上げは想定通りだが、お客様の反応は想定外だった」という。実はこの実証実験で大幅な売上増は期待されていない。むしろ顧客にさまざまな負担をかけることになって、顧客離れが起きないかが重要なポイントだった。しかし顧客はほとんど気にしていないようだという。

「お客様は普通に受け入れている感じ。利益については節電効果などが期待されているが、電気料金の値上げやタイムラグがあるのでまだ正確なところはわからない。それより、新しい取り組みでバタバタしてクレームが殺到するんじゃないかと実は冷や冷やしていた。ところがいざ始めてみると、それが全然なかったのにはびっくりした」

 実は、まだ店内には以前と同様にスタッフが2人いる。ただ仕事の質が大きく変わってきた。以前はレジ打ちがあったため、スタッフはカウンター内で作業することが多かった。しかしレジ打ちがなくなったことでカウンターの外に出て作業することが多くなったという。

 前田氏は「カウンターというのは実はスタッフにとっては何かあったときの“安全地帯”でもある。だからカウンターから常時出ていることに、最初はスタッフから『怖い』という声も上がった。さらにカウンター越しとは違う接客が求められることに不安もあったようだ。しかしいざやってみると、お客様は気軽にスタッフに声をかけてくれるようになり、スタッフ同士の連携もとりやすくなった。

 スタッフからも働きやすくなったという声が上がっている。経営者的な視点から見ても効率は上がっている。採用面接ではよく、『レジ打ちは難しくないのか』という質問を受けるが、そうした心配も軽減される。他の店舗でもなるべく早くこうした仕組みを導入していきたい。むしろ導入していかなければならないと思っている」と話している。

(松崎隆司・ジャーナリスト)

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