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H3失敗と「だいち3号」喪失で日本の宇宙計画に空白期間も 鳥嶋真也

種子島宇宙センターから打ち上げられたH3ロケット試験機1号機だが、失敗に終わった(3月7日)
種子島宇宙センターから打ち上げられたH3ロケット試験機1号機だが、失敗に終わった(3月7日)

 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月7日、日本の新しい主力ロケット「H3」の試験機1号機の打ち上げに失敗した。搭載していた地球観測衛星「だいち3号」も失われ、日本の宇宙戦略に影を落とすこととなった。

 H3は、JAXAと三菱重工業が共同開発している大型ロケットで、現在の主力ロケット「H2A」の後継機となる。H2Aと比べ、小型衛星から大型衛星まで幅広く柔軟に打ち上げられる能力を持ち、1機当たりの打ち上げコストを半減させる目標も掲げる。

 H3の開発は2014年度から始まり、当初は20年度の打ち上げを目指していた。しかし、新技術を数多く投入した第1段エンジンの開発が難航し、年度をまたぐ延期を2度強いられた。今回の打ち上げでは、第1段エンジンは正常に稼動したものの、第2段エンジンが着火せず、指令破壊された。

余裕ない宇宙戦略

 3月10日時点で原因は調査中だが、機体やエンジンの電源系統に問題があったとみられている。今後、原因究明と対策を進める必要があるが、そもそも新型ロケットの最初の打ち上げ失敗は珍しくない。実際に打ち上げなければ分からない問題を見つけるのが試験機の目的でもあり、むしろ新開発の第1段エンジンが正常に稼動したことは評価すべきだ。

 ただ、政府が定める日本の宇宙戦略である宇宙基本計画では、23年度にはH3の運用を開始し、24年度にはH2Aの運用を終了することが計画されている。H2Aの追加生産も難しく、H3の運用開始が遅れれば主力ロケットの運用に空白期間が生じ、宇宙計画に大きな影響が出る。

「だいち3号」が失われたことも重大だ。同衛星は地球を観測し、撮影した画像を防災・災害対策などに活用するという重要な使命を帯びていた。先代の衛星はすでに耐用年数を過ぎており、新たな衛星を打ち上げるとしても何年も先になるため、観測に空白期間が生じる可能性が高い。災害大国である日本にとって由々しき事態である。こうした事態から見えてくるのは、日本の国家戦略としての宇宙戦略の問題である。

 本来であれば、1度や2度の失敗で計画全体が影響を受けないよう、余裕のある体制にしておくべきだった。例えば、H3の運用が安定するまでは実績のあるH2Aの運用を続けたり、「だいち」のような重要な衛星も複数機製造し、予備機や代替機がある体制で運用したりすべきだったのではないか。

 かつて日本は、同じように打ち上げ失敗によって気象衛星を失い、03〜05年は米国から気象衛星を借りざるを得なくなった苦い過去がある。今回同じ轍(てつ)を踏んだことは、見通しが甘かったというほかない。これを教訓に宇宙戦略を見直し、堅牢(けんろう)性、強靭(きょうじん)性を高めることが必要である。

(鳥嶋真也・宇宙開発評論家)


週刊エコノミスト2023年3月28日号掲載

FOCUS H3ロケット失敗 第1段エンジンは評価も だいち3号を失った痛手=鳥嶋真也

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