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週刊エコノミスト Online ロングインタビュー情熱人

名古屋生まれの大正琴で心癒やされる音色を――岩田茂さん

「ナゴヤハープ」などの愛称でも知られる大正琴。子どもの頃は家業を継ぐ気はなかったが、愛好家の思いに触れて次第にのめり込んだ 筆者撮影
「ナゴヤハープ」などの愛称でも知られる大正琴。子どもの頃は家業を継ぐ気はなかったが、愛好家の思いに触れて次第にのめり込んだ 筆者撮影

ナルダン楽器社長 岩田茂/73

 楽譜が読めなくても、音階ボタンを押せば誰でも弾けるようになる大正琴。シニアの楽器のイメージが強いが、実はジャズなどに挑戦する若い人もいる。発祥の地、名古屋で大正琴を作り続ける職人に、その魅力を聞いた。(聞き手=春日井章司・ジャーナリスト)

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── 大正琴とはどんな楽器ですか。

岩田 その名の通り、大正元年(1912年)に発明された日本独自の鍵盤付きの弦楽器で、当時日本で広がっていた二弦琴(にげんきん)とタイプライターの仕組みを応用したものといわれています。名古屋を代表するモノ作りの一つで、発明された当初は世界に輸出され、大正の日本を象徴する工業製品でした。

── 誕生の経緯は。

岩田 大正琴を発明したのは、名古屋の大須の旅館の息子で発明家だった森田吾郎氏です。森田氏は西洋に行った際に西洋音階に魅せられ、何とか弾けないかと考案して思いついたのが、タイプライターのキーのような音階ボタン(鍵盤)を左手で押さえて、右手のピックで弦を弾いて音を出すアイデアです。当時はオルガンやバイオリンなどは高級で庶民には縁遠く、音階キーがピアノの鍵盤と同じ配列になっているので、庶民が弾ける西洋音楽の楽器としてもてはやされました。

 森田吾郎氏が住んでいた大須は花街で、大須観音がある門前町でもあった。大正琴を作っていた工場が大須にあったのは、飛騨の木材産地から木曽川や長良川を利用して堀川運河を経由して運ばれる良質な木材の入手もしやすかったから。当時の堀川沿いには木工技術を生かした仏壇や家具、時計の工場、材木問屋があった。大正デモクラシーの時代。町の中心であった大須観音の境内では料亭や芝居小屋の芸子さんや半玉(はんぎょく)さんたちが並んで演奏を披露したという。

── そんなに簡単に弾けるのですか。

岩田 大正琴は楽譜が読めない人でも、1から7までの数字の音階ボタンを押せばドレミファソラシドの音階を鳴らすことができます。ピアノの白鍵と黒鍵をイメージしたボタンのメロディー楽器なので、3カ月ほど練習すれば誰もが弾けるのが大きな魅力です。

── どのような音がするのでしょう。

岩田 ギター弦より細い専用の金属弦を張ってピックで弾くことで繊細な音が鳴ります。2オクターブ程度の音階を単音で鳴らせるようになっていて、ギターのようにフレットがついています。和風というより和洋折衷ですね。メーカーによって5弦版と6弦版などがあります。1弦から4弦がメロディー弦、5、6弦は巻線のベース弦で、メロディーには影響しません。

古賀メロディーで普及

── チューニングはどうするのですか。

岩田 一般的なソプラノ大正琴では、5弦の場合は1弦、2弦、3弦は同じ音が鳴るようにします。キーの音はソ(G)です。4弦は巻弦で1オクターブ低いソ、そしてベース弦の5弦はさらに1オクターブ低いソの音になります(6弦版は4弦・5弦が1オクターブ低く、6弦はさらに1オクターブ低い)。

 つまり、チューニングはGのみで、ギターのような和音(コード)はありません。楽譜は数字で表された「数字譜」を見て、音階ボタンを押さえながら弦を弾くことで、単音でメロディーを奏でられるのが大正琴のなじみやすさです。

── 材質による音の差もありますね。

岩田 ボディーは箱型の躯体(くたい)に弦巻き材をつけて一体化させた本体に弦を張り、音階ボタンが付いた天板をその上に載せます。ギターなどと同様に弦の振動を箱の中で共鳴させるので、躯体の材質で音色が変わります。ボディーの材質はギター同様に十分に乾燥させたスプルース材、アガチス材、木目の美しい山桑材、桐材などを使います。

 大正から昭和にかけて全国的に広がった大正琴は、59(昭和34)年に作曲家の古賀政男が「人生劇場」で演奏したことで再び爆発的に流行。古賀メロディー=大正琴の人気が高まった。その後、3度目のブームとなる70~80年代には、アルト、テナー、ベースなどの音域が広がった大正琴が登場し、大勢で弾くグループ合奏が全国ではやった。今ではシニア層の趣味の一つになり、愛好者は100万人といわれる。

── 流派も多いようです。

岩田 歴史が短く奏法なども変わりませんが、ブームが来るたびに愛好家人口が増え、さまざまな流派ができました。ヤマハやスズキ(鈴木楽器…

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