脱炭素で発行が増えた移行金融債 次の注目は政府発行のGX経済移行債 長内智
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環境問題への意識の高まりにもかかわらず、脱炭素社会に移行する取り組みに資金を提供する「移行金融(トランジションファイナンス)」にはブレーキがかかっている。
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環境問題や地球温暖化に対する世界的な関心が高まる中、金融分野において、ESG(環境・社会・ガバナンス)を考慮したサステナブルファイナンスの重要性が増しており、企業の中長期的な資金調達手段として、ESG債の発行が増加している。中心的な役割を担っているのは、資金使途を環境問題の解決に貢献するグリーンプロジェクトに特定したグリーンボンド(環境債)だ。しかし、現実には、温室効果ガス排出量の多い「ブラウン企業」が多数存在する。これらの企業はグリーンプロジェクトがなく、環境債の発行が困難であるケースも多い。
しかしながら、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を実現するには、ブラウン企業の低炭素化や脱炭素化への移行を着実に促すことが必要不可欠である。その手段として近年注目されているのが、トランジションファイナンス(移行金融)だ。ESG債の中では、トランジションボンド(移行債、TB)とサステナビリティー・リンク・ボンド(SLB)が移行金融を担う債券(以下、移行金融債と略称)と位置付けられる。
TBの発行体は、発行に際して、2015年に採択された「パリ協定」と整合的な移行戦略を策定した上で、低炭素化や脱炭素化に向けた取り組みが求められる。SLBは「サステナビリティー・パフォーマンス目標」を設定する必要があり、その達成状況により利率条件など債券構造が変化し得る仕組みになっている。また、両債券とも、進捗状況を検証・評価するために「重要な評価指標(KPI)」を選定する必要もある。
悪化する発行環境
日本では、SLBの発行が先行しており、20年10月にヒューリックが日本初の債券を発行した。TBについては、日本郵船が21年7月に発行した債券が国内初の事例となる。これら移行金融債の国内発行状況を確認すると、22年に発行額が大幅に増加したことが分かる(図)。また、同年6月には、ENEOSホールディングスがSLBとTBの両方の特徴を有する債券を発行したことも注目される。
日本は、ブラウン企業がまだ多く存在するため、カーボンニュートラルに向けた段階的な取り組みのために移行金融債の活用が期待されており、政府もこれまで発行を積極的に後押ししてきた。例えば、政府は、21年5月に移行金融に関連した基本指針を世界に先駆けて発表した。また、企業が移行金融を活用した気候変動対策を検討する際に役立つ「ロードマップ」を複数の経済産業分野について策定してきた。
こうした背景などもあり、22年のTBの発行数は、日本が世界一となった(クライメート・ボンド・イニシアティブ調べ)。また、22年末ごろまでは、移行金融…
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週刊エコノミスト
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