憲法改正の国民投票に現実味 解散前に信問う項目の明確化を 中田卓二
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4月の統一地方選と衆参両院5補選での立憲民主、共産両党の不振は、国会での憲法改正論議に影響しそうだ。党派を超えて各論の検討が進んでおり、改正案の賛否を問う国民投票へのハードルはこれまでになく下がっている。
東京都内のホテルで4月25日に開かれた自民党憲法改正実現本部の会合。岸田文雄首相が遅れて駆けつけると、古屋圭司本部長はこんなエピソードを披露した。「1年前、総裁ははっきりおっしゃった。私はリベラルといわれているが、戦後77年間、先人が誰もなしえなかった憲法改正を自分の世代でしっかり実現したい」
続けてあいさつに立った首相は「私が語ることはなくなってしまった」と引き取り、「2回の国政選挙で憲法改正を公約の柱の一つに掲げて勝たせていただいた。憲法改正に対する思いはいささかも変化していない」と強調した。
「改憲勢力」3分の2超
2021年衆院選と22年参院選で首相や自民党が改憲を正面から訴えたわけではなく、首相の言い方にはやや誇張がある。しかし、両選挙を経て、自民、公明両党に日本維新の会と国民民主党を加えると、「改憲勢力」は衆参両院で3分の2を超える議席を占めている。改正原案がまとまれば、国会による発議と初の国民投票が現実味を帯びる。
現時点で最も合意に近いのは緊急事態における国会議員の任期延長だろう。
これに関して、日本維新の会、国民民主党、衆院会派「有志の会」は3月、改正条文案を発表した。①武力攻撃、②内乱・テロ、③自然災害、④感染症のまん延、⑤その他これらに匹敵する事態──によって、広範な地域で国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難な場合、衆参両院の出席議員の3分の2以上の賛成で、6カ月を上限に任期を延長できる(再延長も可)としている。
緊急事態対応は、自民党が安倍政権時代の2018年にまとめた4項目の「条文イメージ」にも盛り込まれた。同党案は「大地震その他の異常かつ大規模な災害」を緊急事態と定義したが、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、侵略行為も含めるべきだという意見が強まっており、3党派案と隔たりはない。
公明党も議員任期延長には前向きだ。北側一雄副代表は3月23日の衆院憲法審査会で、国政選挙の適正な実施が70日を超えて困難な場合、内閣が選挙困難事態と認定し、国会が承認すれば、任期を最大6カ月延長するとの見解を示した。3党派案と同様に再延長も認めるという。
衆院の解散中、参院は緊急集会を開くことができる。しかし、現行憲法は選挙が長期間実施不能になることを想定していないというのが緊急事態条項創設の論拠だ。3党派案などの「70日超」は、憲法第54条第1項の「解散から40日以内に衆院選を実施し、そこから30日以内に国会を召集しなければならない」を援用している。
疑問点は数多く
日本維新の会の馬場伸幸代表は3党派案を「意見集約のたたき台になり得る」とアピールす…
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週刊エコノミスト
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