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マーケット・金融 米欧金融不安

インタビュー「国際金融当局の関心はノンバンク」天谷知子・金融庁金融国際審議官

 米地銀が相次ぎ破綻して、国際的な大手行クレディ・スイスが救済合併された。国際的な金融システムにきしみが生じていないか。金融庁の天谷知子審議官に聞いた。(聞き手=浜田健太郎/浜條元保・編集部)

── 3月、シリコンバレー銀行(SVB)やシルバーゲート銀行、シグネチャー銀行の米銀3行が破綻した。

■3行にはそれぞれ固有の事情があった。シルバーゲート銀は、暗号資産ビジネスに対する専用銀行のような業態だったから、暗号資産業界の衰勢と運命を共にした面がある。SVBは顧客層がベンチャー企業に集中していたのが特徴だった。顧客層の偏りとはそれ自体がビジネスモデルであり、固有の問題だ。聞いている限り、SVBもシグネチャー銀も経営がずさんだったことも要因だろう。

── 今回の破綻劇が局地的にとどまるのかどうか。米国の金融システム全体を揺るがすような事態に波及する可能性はないのか。

■米当局は迅速に手を打ち、波及は抑えられていると思う。ただ、銀行は保有債券の評価損で苦しんでいる。大本の原因は、コロナ禍で世界の中央銀行が超低金利、超緩和的な金融政策をとった後に、インフレ対応のためにここ1年で急速に利上げに転じたことだ。(金融政策の)急な切り替えによってゆがみが出ている。

 主要国の中央銀行や金融当局でつくるFSB(金融安定理事会)で議論する際に、注視対象として議題になるのがノンバンクだ。(米銀3行の破綻で)我々当局の関心がノンバンクから銀行に移るのかといえば、そうではなくて改めてNBFI(ノンバンク金融仲介機関=年金基金、保険会社、ヘッジファンドなど)を重視する必要があるとの認識になっている。

邦銀AT1債発行を評価

──「バブルはいつも違う顔をしてくる」ともいわれる。

■我々の関心はレバレッジ(少額の資金で大きな投資効果を狙うこと)だ。NBFIといっても特定の機関を指しているのではなく、銀行のバランスシートだけでは見分けがつかないレバレッジ(潜在リスク)がどこにあるかという意味だ。例えば、米投資会社、アルケゴス・キャピタル・マネジメント(2021年破綻、クレディ・スイス、野村証券などが多額の損失計上)は、「トータル・リターン・スワップ」という複雑な商品を駆使してレバレッジをかけていた。(その結果)リスクが集中し、増幅する。「隠されたレバレッジ」には各国当局が注視している。

── 破綻直前のクレディ・スイスの自己資本比率が14%(国外に営業拠点を持つ銀行は8%以上)あったにもかかわらず、UBSに救済合併された。

■マーケットの信認を失ったら万事休すだ。クレディ・スイスは、アルケゴスや(破綻した英金融ベンチャーの)グリーンシル・キャピタルに絡んだ投資などいろいろな問題を残した。スイスは、国の規模に対して金融産業の規模が大きい。(救済策は)金融立国であるが故の対応だろう。

── スイス当局がクレディ・スイスの劣後債「AT1」を全額無価値にして関係者を驚かせた。

■AT1債でも契約文書の内容は国によってさまざま。各国法制の中で法律家が知恵を絞って決めてきた結果だろうが、(決定については)いろいろ議論があるだろう。

── クレディ・スイスのAT1債が無価値になった後に、国際的主要行で初めて三井住友フィナンシャルグループが、AT1債(計1400億円)の発行を決めた。

■マーケットに普通に受け止められたことは良かったとは思う。


 ■人物略歴

あまや・ともこ

 1963年東京都出身。86年東京大学法学部卒業後、大蔵省(現・財務省)入省。2018年証券取引等監視委員会事務局次長、20年金融庁国際総括官などを経て21年7月から現職。


週刊エコノミスト2023年5月23・30日合併号掲載

米欧金融不安 インタビュー 天谷知子 金融庁金融国際審議官 国際金融当局の関心はノンバンク 「隠れたレバレッジ」を注視

インタビュー

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