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教養・歴史 アートな時間

抜き差しならない老壮成の男3人のやり取りが日本戦後史を照らし出す舞台 濱田元子

風間杜夫(中央)、荻原聖人(左)、竪山隼太(右)の3人
風間杜夫(中央)、荻原聖人(左)、竪山隼太(右)の3人

舞台 二兎社「こんばんは、父さん」

 現代演劇における社会派コメディーの第一人者として、多くの話題作を送り出し、数々の賞を受けてきた劇作家・演出家の永井愛。

「歌わせたい男たち」は卒業式での「国歌斉唱」を巡る教師たちの攻防を、「鷗外の怪談」では大逆事件を背景に作家と陸軍軍医総監という二つの顔のはざまで懊悩(おうのう)する森鷗外の姿を描いた。また、「ザ・空気」シリーズでは「忖度(そんたく)」や「記者クラブ制度」などを切り口にメディアの現在に鋭く迫ってきた。

 硬派な題材を取り上げているとはいえ、その語り口には笑いとユーモアもたっぷりまぶされ、観客を瞬く間に劇世界に巻き込んでいく。今作は、そんな永井が東日本大震災と福島の原発事故の翌年に世に問うた作品だ。それから12年たった今、改めてこの国の姿を問いかける上演になりそうだ。

 舞台は、廃虚となった町工場。世代の異なる男性3人による、一夜の出来事だ。かつてこの工場を経営していた佐藤富士夫(風間杜夫)は、金融会社社員の山田星児(竪山隼太)の取り立てから逃げて入ってくる。付けてきた星児は、借金が払えないなら一流企業に勤める富士夫の息子鉄馬(萩原聖人)に電話すると脅すが、父と長年音信不通だった息子もある事情を抱えていた。

 70代の富士夫は優秀な旋盤工としてニッポンのものづくりを支えてきたという自負があるが、今はすべてを失った。40代の鉄馬は出世頭から負け組へと転落し、20代の星児は上司から追い込まれている。いずれも抜き差しならない状態だ。そんな世代も境遇も異なる3人の、時に滑稽(こっけい)な会話からは、戦後の日本経済の浮き沈みという、大きな絵も透け…

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