週刊エコノミスト Online闘論席

片山杜秀の闘論席

撮影 中村琢磨
撮影 中村琢磨

 リンゴはなぜ地面に落ちるか。地球に引っぱられているからだ。そうニュートンが喝破したのは非常時下だった。1665年、ロンドンにペストが大流行した。約30万の人口のうち、4分の1もが死亡したという。密集地にいては命が危うい。ニュートンもロンドンから逃げ、田舎のリンゴの木を眺めていてひらめいた。

 それに少し先んじる51年、やはり英国の人、ホッブズが『リヴァイアサン』を著した。人間は放っておくと無法化し、万人が万人に対し闘争を始める。だから強力な国家が必要だ。ホッブズはこの着想をどこから得たか。

 疫病だろう。ロンドンの大流行の前だが、欧州で疫病による大量死が起こるのはしょっちゅうだった。そのとき人間の正体がむき出しになる。自分の命が助かるなら他人を押しのけて何でもする。それを阻止できるのは暴力装置を独占した国家だけだ。『リヴァイアサン』の初版本のカバーにはペストの防疫人が描かれている。厳しい防疫を可能にする絶対権力が近代国家の本質ということだ。

残り369文字(全文794文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事