光ファイバーを中心とする情報通信の他、エレクトロニクスや自動車、高温超電導など多岐にわたる事業を展開するフジクラ。抜本的な構造改革、経営改革を進めて、22年度の最終利益は409億円と過去最大に。続く23年度純利益も過去最高を更新する見通しだ。持続的成長フェーズに舵を切ったフジクラ。岡田社長CEOに“技術のフジクラ”の強みと、たゆみない価値創造を支える人財戦略について聞いた。
中期経営計画の主眼は「技術のフジクラ」ブランドの再構築
フジクラは2023年5月、2025年中期経営計画を発表した。その冒頭で岡田氏が強調したのは、同社のDNAである「技術のフジクラ」である。1885年、藤倉善八による個人企業として創業し、電気の時代を先取り、進取の精神で電線製造に乗り出したフジクラは、社会や顧客ニーズの変化に即応し、つねに優れた技術力でユニークな製品を生み出してきた。その一つが、現在光ファイバーの主力商品となっている「SWR®(スパイダー・ウェブ・リボン)/WTC®(ラッピング・チューブ・ケーブル)」である。岡田氏が開発を主導した製品で、SWR®は光ファイバーを間欠的に接着し蜘蛛の巣状に接着したもの、それらを束ねてケーブル化したものがWTC®だ。従来と比べて圧倒的に高密度で細く、軽く施工性にも優れる。狭いスペースにより多くの光ファイバーを敷設でき、工事費も抑えられると、国内外でその評価は絶大だ。
岡田氏は、「プライベートカンパニーとして出発した当社が、巨大な資本力を有する競合と戦い、優位性を保ち続けるには、技術力を磨き上げるしかないという強い思いが130余年の歴史を作ってきた。将来のさらなる成長に向けても技術のフジクラの維持、再構築が、中期計画における最大の眼目です」と強調する。
フジクラが中期計画で具体的に掲げた核心的事業領域は、「情報インフラ」、「情報ストレージ」、「情報端末」の3つ。情報インフラ領域では、SWR®/WTC®に代表される先進的な光技術をベースに高度情報化社会の牽引を目指す。情報ストレージ領域でのターゲットは、膨大なデータ処理とストレージを必要とするハイパースケールデータセンター(HSDC)だ。「フジクラの有する電子部品・コネクタ技術や超高密度光配線技術が、優れたHSDCの構築に役立ちます」と岡田氏。情報端末領域が包含するのは、パソコンやスマホ、タブレット、ウエアラブル、AR/VR、ドローン、次世代自動車など多岐にわたる製品。それらに不可欠なセンサーやスイッチ、コネクタ、回路基板、ワイヤーハーネスなどの多種多様な電子部品群もフジクラの技術力が生み出している。
新製品と製造技術のダブルの開発力で他の追随を許さぬ優位性を獲得
めまぐるしく変転する国内外の環境にもフジクラは敏感に反応している。たとえば米国で24年度から始まるBABA※に対しては、SWR®/WTC®の全工程を米国内で製造する体制を整えることにした。
「技術のフジクラ」ブランドの再構築を象徴する設備面での増強も進んでいる。千葉県佐倉市に、25年度稼働を予定するSWR®の新工場がそれだ。
「フジクラの技術力は、新製品の開発のみに注がれるだけではありません」と岡田氏。「私たちが長い歴史の中で目指してきたものは、つねに新製品と新製造技術をセットで開発すること。佐倉のSWR®新工場でも、今、あらゆる最新技術を投入しながら、製造装置の設計・開発・製造を同時進行しています」。
SWR®はきわめて高精度の金型を使い、繊細な製造工程を経て完成する。フジクラは超微細加工技術を駆使して金型も内製化し、他の追随を許さない生産性、高品質を実現する。
「製品開発と製造技術開発は、クルマの両輪。その二つを両立するのが、技術のフジクラたるゆえん」と、岡田氏は胸を張る。
中期計画では、2025年以降を見据え、カーボンニュートラル社会への貢献も今後の経営の柱とした。新工場は、徹底した省エネと、太陽光発電等の創エネによる「カーボンニュートラル工場」を目指す。
新たな事業を創出できる事業家マインドを持ったグローバル人財を育成する
新規事業への挑戦にも精力的だ。代表例が、高温超電導線材の開発である。液体窒素温度域で電気抵抗がゼロになる高温超電導の適用範囲は広く、とくに注目されるのが、二酸化炭素を排出しない究極のエネルギー源と言われる核融合発電技術への応用だ。フジクラは約30年、この夢の技術を線材などの部材から支えることに取り組む世界のトップランナーである。フジクラの高温超電導線材はすでに研究用や実験用の核融合炉に採用され、早期の商用化を目指している。
「フジクラ独自の技術による高温超電導線材は、高品質で安定性に優れ、核融合炉の小型化につながります」と岡田氏は強調する。
こうしたフジクラの多角的な事業を支えているのは、言うまでもなく人間だ。中期計画の「サステナビリティ目標2025」の中でも、フジクラは「世界で通用する有能な人財集団」をうたっている。同社は世界各地に約140の拠点を持ち、売上に占める海外比率は7割に及ぶ。グローバル人財の獲得と育成は、重要な経営課題の一つと言える。
フジクラでは階層別研修などさまざまな教育システムを設けているが、ユニークなのは次世代経営者を育成する一連の研修制度を有していることだ。岡田氏はその第1期生であり、現在フジクラの経営トップとして世界5万5000人のグループ社員を先導する。
「当社社員に求めるのは、事業家たれ、ということ。一人ひとりが経営を担う気持ちで、新しい事業を創出し、会社と自身の自己実現を成し遂げる。そのような人財戦略をさらに推進していきたい」と、岡田氏は前を見据える。
情報通信を始め多画的な分野において“つなぐ”テクノロジーで、「技術のフジクラ」は、優れた人財と共に、新たな価値創造と社会貢献を続けていく。
【会社沿革】
創業:1885年藤倉善八により創業
事業内容:高密度光ファイバーケーブルなどエネルギー・情報通信事業、電子部品・コネクタ事業、ワイヤーハーネスなど自動車部門、高温超電導やミリ波、医療関連など新規事業の他、不動産事業など多岐にわたる
従業員数:世界各地の約140の拠点に約5万5000人(連結)
資本金:530億円
業績:(2023年3月期、連結)
営業利益:702億円(過去最高)
純利益:409億円(過去最高)