マティス芸術の到達点とされる切り紙絵に出合う好機 石川健次
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美術 マティス 自由なフォルム
20世紀の代表的な画家で“色彩の魔術師”と謳(うた)われるアンリ・マティス(1869~1954年)は、法曹家を目指していた20代初め、虫垂炎をこじらせて1年近く療養を余儀なくされた。療養中に母親から贈られた絵具箱が、マティスの人生を大きく変える。
「この絵具箱を手にした瞬間から今までずっと、これこそ自分の人生だと感じてきました。すっかり心を奪われました。天国を発見したようなものです」(本展図録、以下同)。絵具箱、いや絵画との出会いを振り返って、マティスは後年こう語っている。
全快後、法律を放棄したマティスは、パリの国立美術学校で、苦悩や不安など目に見えないものを描こうとした象徴主義の巨匠、ギュスターヴ・モローに師事する。マティスの才能を信じたモローは、古典的な規範に従うより個性を打ち出すようマティスに勧め、「きみは絵画を単純化することになるだろう」と告げたという。
やがて大胆で鮮やかな色彩と単純化された形態を特徴とするフォーヴィスム(野獣派)の創始者として歴史に名を刻むマティスの将来を、偉大な師は看破していたのである。
初めて描いた油彩画やフォーヴィスムの傑作、さらにロシアの作曲家イーゴリ・ストラヴィンスキーとバレエ・リュス(ロシア・バレエ団)の創始者セルゲイ・ディアギレフから依頼されたバレエ衣装など、本展にはマティスが歩んだ人生の軌跡をたどるように時々の貴重な作品が並ぶ。
なかでも充実しているのは、晩年のマティスが熱中した切り紙絵だ。絵の具でさまざまな色彩に塗られた紙をハサミで切り取って構成する切り紙絵で、色も形もいっそう純化してゆく。例えば、図…
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週刊エコノミスト
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