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教養・歴史 アートな時間

自分の「良心を納得させる」ためだけに描いた画家の軌跡を目撃せよ 石川健次

《アダンの海辺》昭和44年(1969)絹本着色 個人蔵 ©︎2024 Hiroshi Niiyama
《アダンの海辺》昭和44年(1969)絹本着色 個人蔵 ©︎2024 Hiroshi Niiyama

美術 田中一村展 奄美の光 魂の絵画

 人生も後半生に差し掛かろうかという50歳を機に奄美大島に移り住んだ田中一村は、19年後の1977年、広大なマングローブの森など多種多様な動植物が生きるこの島の畑の中の一軒家で夕食を支度中、心不全でその生涯を閉じた。看(み)取(と)る人はいなかったという。

「生前まったく無名」(本展図録)のこの画家が知られるようになったのは、死から2年後、奄美の知人たちによって地元の公民館で3日間だけ開かれた展覧会がきっかけだ。やがてテレビの全国放送で画業が紹介されるや大反響を呼び、多くの評伝や画集が刊行されるなど人気は不動となった。

 こうした軌跡が、「異端の画家」などのイメージを膨らませ、人気に拍車をかけた感は否めないだろう。東京美術学校(現東京藝術大学)日本画科の同級生で早くから頭角を現し、後にいずれも文化勲章を受章した東山魁夷や橋本明治らと並べると、なるほどそう見えるかもしれない。

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