⑱噛まなくなった日本人の謎に迫る❷ 林裕之
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1970年代前半を境に急速に進んだ、ボリュームたっぷりの食の欧米化が大きく影響している。
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前号で現代人の咀嚼(そしゃく)回数が減った理由を解き明かしました。江戸時代から戦前の日本人が1食当たり約1400回も噛(か)んでいたのは、食べ物が硬かったからではありませんでした。少ないおかずで大量のコメ(1日4合=炊きあがり1.3キログラム、お茶わん約9杯)を食べていたからです。必然的に噛む回数は多くなります。戦後、コメの消費量は減り続け、2020年は1日0.9合と戦前の4分の1以下です。コメを咀嚼する回数は減りますが、おかずは昔より増えたのに咀嚼回数が減ったのはなぜなのでしょう?
敗戦後の困窮と混乱から立ち直り、1964(昭和39)年に開催された東京オリンピックで日本は先進国の仲間入りを果たしました。しかし、この頃はまだ1日約2合のコメを食べていました。その後も高度経済成長の波に乗って庶民の所得も増え、炊飯器や冷蔵庫などの電化製品も普及し食卓も徐々に豊かになっていきます。
日本人の食が大きく変わったのは70年代に入ってからです。70年に大阪で開催され183日間の開催期間中の入場者が6422万人と大成功した万国博覧会は大きなインパクトを残しました。世界77カ国のパビリオンは島国日本に暮らす私たちに外国文化を見せつけました。
万博会場にパイロット出店された日本初のケンタッキーフライドチキンは大人気で、食の欧米化の先駆けとなりました。翌年からハンバーガーなどのアメリカ食、あるいはファミレスのようなアメリカ方式の外食が瞬く間に浸透し、それまでになかった食生活や食行動に大変革したのです(表)。
「軟食ネーティブ」
家庭での食生活も変わります。それまでの少ないおかずで大量のご飯を食べるから、おかずが増えてご飯が少ない食事に変化しました。トンカツやハンバーグはおかずとしてはボリュームがあり、ご飯は少なくてもおなかがいっぱいになります。総じて噛む回数は少なくて済みます。
また、ハンバーガーやカップヌードルも軟らかいのであまり噛まなくても飲み込めます。スープや牛乳、ジュース類は噛まずに栄養摂取できます。マヨネーズやケチャップも常備されるようになり、副食が高栄養化します。
70年前後生まれからは、それまでの和食にはない味覚と栄養豊富…
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週刊エコノミスト
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