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国際・政治 エコノミストリポート

製造・使用禁止の物質PFAS 各地で相次ぐ指針値超えの検出 諸永裕司

周辺の井戸から高濃度のPFASが検出された三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場(静岡県清水市)
周辺の井戸から高濃度のPFASが検出された三井・ケマーズフロロプロダクツ清水工場(静岡県清水市)

 環境や人体に長く残る「永遠の化学物質」。健康への悪影響が指摘される中でも、国や自治体は健康実態の調査や規制強化に消極的だ。

日本の規制が緩いのは「有害性をめぐる評価が統一されていない」ため

 いまや、「PFAS(ピーファス)汚染列島」と呼べるような状況が生まれている。PFASとは、有機フッ素化合物のうちペルフルオロアルキル化合物とポリフルオロアルキル化合物の総称で、1万種類以上あるともされる。人工的に作られ、水も油もはじき、熱に強い。ただし、分解されにくく、環境や体内に蓄積されやすい。「永遠の化学物質」ともいわれ、発がん性や免疫、発育に及ぼす影響が指摘されている。

 環境省は今年3月、2022年度の調査の結果として、PFASのうちPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)とPFOA(ペルフルオロオクタン酸)が、全国16都府県の河川や地下水など111地点で国の暫定指針値(合算で1リットル当たり50ナノグラム、ナノは10億分の1)を超えていたと発表した。岐阜県各務原市や京都府福知山市など、自治体や市民団体の調査で暫定指針値を超えて検出される事例も各地で相次いでいる。

 PFASは焦げつき防止のフライパン、防水スプレー、傘をはじめ、ハンバーガーの包装紙、化粧品やコンタクトレンズ、自動車部品や半導体の製造過程など、多彩な用途に使われてきた。いまや「台所から宇宙まで」といわれるほどだ。1950年から使われ始めたが、2000年代初めからその有害性が指摘されるようになった。

 端緒となったのが米ウェストバージニア州の汚染事例で、PFOAを扱う米大手化学メーカー、デュポンの工場周辺の住民など7万人を調べた結果、腎臓がん、精巣がん、潰瘍性大腸炎、高コレステロール血症、甲状腺疾患、妊娠高血圧症との関連性が高いことが分かった。その後、米国の学術機関「全米アカデミー」も腎臓がんと脂質異常症、子どもの成長への影響などを指摘している。

見えづらい「健康被害」

 ただ、「PFAS病」といわれる症状はなく、被害がみえづらいため、最近まで注目されなかった。国内ではPFOSが10年、PFOAは13年ごろまでにそれぞれ使われなくなったが、ひとたび環境中に出ると土壌や地下水に残り続ける。このため、地下水を水源とする一部の飲み水にも汚染が広がっていった。

 飲み水に含まれるPFASについて、国が規制に動いたのは20年。それまではごく一部を除いて測定されておらず、大半の自治体は汚染を認識していなかった。初めて設けられた水質管理のための目標値は、PFOSとPFOAの合計で「1リットル当たり50ナノグラム」だった。数値を決めるにあたって参考にしたのは、米環境保護局(EPA)の健康勧告値であるPFOSとPFOAの合計で「70ナノグラム」だった。

 そのEPAは24年4月、この値を大幅に引き下げた。PFOS、PFOAをそれぞれ4ナノグラムとし、強制力のある規制値に位置づけたうえ、有機フッ素化合物のPFHxS(ペルフルオロヘキサンスルホン酸)、PFNA(ペルフルオロノナン酸)、PFBS(ペルフルオロブタンスルホン酸)、HFPO-DA(ヘキサフルオロプロピレンオキシドダイマー酸、「GenX化合物」として知られる)の4物質も規制対象に加えた。

 また、欧州ではPFASを物質ごとではなく、グループとして規制する流れが一般的だ。例えば、4物質の合計で2ナノグラム(ドイツ)、同2ナノグラム(デンマーク)などとなっている。ところが、日本の環境省は「50ナノグラム」を据え置いたまま、水道法上の扱いを現在の「水質管理目標設定項目」から、順守を義務づける「水質基準」に引き上げるとみられる。来年春にも正式に決まる見通しだ。

染色体異常との関連も

 日本の規制の緩さは、食品安全委員会が新たに設けた「耐容1日摂取量」にも通じる。食品から1日に摂取しても健康への影響がないとする値は、米国の200倍以上、欧州連合(EU)の64倍以上も大きい。欧米はヒトを対象とした近年の疫学研究を根拠にしているのに対し、日本は「評価にばらつきがある」として疫学研究を採用せず、8年前までの動物実験に基づいて算出しているためだ。世界中の研究者の評価が一致するまで待つのだろうか。

 健康への影響をみるには、血液中にどれくらい蓄積されているかを測り、健康状態を観察するバイオモニタリングが不可欠だ。その一つ、環境省が全国15地域の母子10万組を対象に進める「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」では、血中濃度と病気との因果関係を探る研究が行われ、今年9月にはPFASの暴露と染色体異常との関連を示す結果が出た。他にどのような疾患への影響が認められるか、今後の発表に注目が集まる。

 環境省は25年度から、成人の平均的な傾向を調べる「化学物質の人へのば…

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