⑲噛まないと噛めなくなる 林裕之
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軟らかい食物が多くなった現代人の咀嚼回数は減り続け、若年層の噛む力は急速に衰えている。
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江戸時代から戦前まで1食1400回の咀嚼(そしゃく)回数を支えたコメの消費量は減り続け、1970年代に本格化した洋食化で、栄養豊富で軟らかい副食が主役の食生活へと変貌しました。噛(か)まずに飲むだけで栄養が摂取できるスープや牛乳、ジュース類も浸透し1食620回となりました。「軟食ネーティブ」と名付けた70年生まれも50歳代となり、今は第3世代が生まれ始めています。
軟らかい食べ物ばかりだと、噛む回数が減るばかりでなく、噛む力も衰えます。戦前の人は特に硬いものを噛んでいたわけではありませんが、硬いものも難なく食べられたようです。30年ほど前にこんな新聞記事がありました。
ある高齢者が、近ごろのかりんとうは軟らかいので、子どもの頃食べていた硬いかりんとうを作ってほしいと投書したところ、あるメーカーが昭和初期のかりんとうを忠実に再現しました。すると、硬すぎて誰も噛めなかったというのです。
噛む回数が多かった昔の人々は噛む力も強かったことを物語る逸話として記憶に残っています。現代人の噛む力の衰えは、厚生労働省による2019(令和元)年 国民健康・栄養調査結果からも読み取ることができます。
図は「半年前に比べて硬いものが食べにくくなった」「左右両方の奥歯でしっかり噛み締められない」という問いへのアンケート結果をグラフにしたものです。特に気になるのが後者の結果で、20代、30代でほぼ5人に1人、40代で4人に1人が「左右両方の奥歯でしっかり噛み締められない」と自覚しているのです。
「噛むと疲れる」10代
また、日本歯科医師会が20年に行った別の調査では、「食事で噛んでいると顎(あご)が疲れることがある」の問いに、10代48%、20代39%、30代38%、40代34%が「ある」と答えています。特に10代は約半数が「噛んでいると顎が疲れることがある」のです。
一般に高齢になれば噛む力が衰えることは理解できますが、どちらの調査でも若年層に「噛む力」に問題がある人の割合が高いことを示しています。
特に10代に多い「噛んでいると顎が疲れることがある」は、コロナ禍での食生活も影響しているのではないでしょうか。家庭での食事が増え便利に使えたのが…
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週刊エコノミスト
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