日本の本当の輸出価格競争力を知る 佐藤清隆
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円安になっても日本の輸出価格競争力は伸びていない。なぜなのか。為替レートに加味して物価変動も見る必要がある。
日本・韓国・中国を比較すると…
円の実質実効為替レートが1970年初めの水準まで減価したことは広く知られている。この実質実効為替レートの減価を理由に、円の実力が低下したと度々指摘されたが、それが通貨としての円の実力低下を意味しないことについては拙稿(2024年6月4日号)で詳しく解説した。
本稿では、22年から進行した円安によって日本の輸出価格競争力がどのように変化したかを考察する。その鍵となるのは実質実効為替レートである。
物価変動を加味して考える
経済学では、実質(実効)為替レートの減価を「輸出価格競争力の上昇」と解釈する。理解を容易にするために、2国間の(具体的には円の対ドル)実質為替レートを例として考えてみよう。これは、円の対ドル名目為替レートに米国と日本の物価水準の比率を乗じたものと定義される。
名目為替レートの減価は日本の輸出を促進すると一般に考えられているが、名目為替レートだけを見ても輸出価格競争力を正確に測ることはできない。両国の物価水準の比率、つまり米国の物価と日本の物価がそれぞれどのように変化するかも考慮する必要がある。
仮に名目為替レートが一定であっても、米国の物価に比べて日本の物価が低下した場合、日本の輸出価格競争力は改善する。これは円の対ドル実質為替レートの減価を意味する。2国間の実質為替レートを多国間に拡張したものが実質実効為替レートであり、当該国の輸出相手国全体に対する輸出価格競争力を捉える指標である。
図1は、日中韓3カ国の産業別実質実効為替レートの平均値(全産業)を示している。図1のグラフが上昇(低下)すると自国通貨高(自国通貨安)を示すと定義される。
なお、消費者物価指数を用いて作成されている国際決済銀行(BIS)の実質実効為替レートとは異なり、図1と図2は産業別の生産者物価指数を用いて作成している。生産者物価とは企業間で取引される財の価格を捉えるものであり、産業別実質実効為替レートは生産コストで測った輸出価格競争力の指標と解釈できる。
図1では、コロナ禍が始まる20年1月1日を基準時点に定め、24年9月までの期間に3カ国通貨の実質実効為替レートがどのように変化したかを示している。「基準時点=100」とする場合、その基準時の選び方によってグラフの位置(水準)が大きく変わるため、どの通貨の実質実効為替レートが上に(あるいは下に)あるかという議論は意味がない。しかし、「ある一定期間に、どの方向にどの程度動いたか」を比較することで、その間の輸出価格競争力の変化を捉えることができる。
20年以降、最も減価した通貨は円であり、20%以上減価している。ウォンの減価は10%以下にとどまっており、人民元も同様であるが、人民元は22年3月まで増価傾向を示した後、ウォンとほぼ同水準まで減価している。
しかし、この図1だけを見て、日本が最も輸出価格競争力を高めたと結論することには慎重であるべきだろう。この期間の実質実効ベースでの円の減価は、名目為替レートの減価の影響を強く受けた結果かもしれない。22年3月以降の世界的な資源エネルギー価格の高騰により、資源輸入国である日本は生産コストの代理変数である生産者物価の大幅な上昇を経験し、コスト面での競争力を低下させている可能性がある。
生産コストで測る競争力は
そこで、名目実効為替レートを実質実効為替レートで除して、名目実効ベースでの円の減価の影響を取り除いた。その結果は、世界(主要輸出…
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週刊エコノミスト
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