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小規模医療機関への優遇税制は必要か? 伊藤由希子

 今こそ医業において70年間続く優遇税制の弊害を検証し、持続可能な「かかりつけ医機能」へ誘導すべきだ。

地域医療の持続性を自ら危険にさらす

「小規模な事業者は税務申告が大変だから、本業に専念するべく、経費はざっくりでいい」──。一般の小規模事業者が聞けば、腰を抜かすような優遇税制だろう。かつては農業でも認められていたが、現在は医業のみだ。

 言うまでもなく「本業に専念する」には非効率な付帯業務を見直すのが先だ。大変だろうから税金を免除するなど本末転倒だ。もし免税されるとすれば、あくまで甚大な被災時など時限的であるべきだ。しかし、医業において概算経費による税務申告を認める制度は70年間、平時の制度として続いてきた。この制度で本当に「本業に専念し、良質かつ適切な医療を効率的に提供」できるのだろうか?「優遇」が当たり前になれば、非効率な業務が、むしろ優遇を受ける方便として温存されかねない。

戦後復興で貢献

 優遇税制の発端は1954年にさかのぼる。当時国民皆保険は成立しておらず、社会保険診療報酬体制は未成熟だった。一方、戦後の復興には医業の普及が不可欠という社会的背景から、診療報酬の一律72%を経費として算定すると認める立法(租税特別措置法第26条・第67条)が成立。報酬の大半を経費化することで、税務上の所得を実際より低く計上できるこの措置は当時、「診療報酬の適正化が実現するまでの暫定的措置」とされたが、その後25年間変更なく続いた。これは医業の経営安定、医師の資産形成、社会保険診療の普及に大きく貢献したとされる。

 その後の見直しで、経費率設定が4段階(57~72%)となり、適用される診療報酬は年5000万円までになった。しかし、概算経費という制度が医業においてのみ、根強く現在も続くのはおかしい。会計検査院の2011年の標本調査によれば、診療所の概算経費率は平均で71%、一方実際の経費率は平均53%で、差の18%(診療報酬5000万円の場合900万円相当)が免税となる。この制度では、実際の医業の経費額が不明なため、免税分の所得の総額も知ることはできない。だが、11年度に優遇税制が適用された事業所の課税標準額は2.1兆円。18%減免を反映すれば、4500億円相当が非課税と見込まれる。

 表は14年時点のやや古い厚生労働省調査資料ではあるが、医療法人立診療所の15%、個人立診療所の17%、計2万4000余りの医療機関が概算経費率を用いている。なお、同省は、適用医療機関は「日夜近隣住民の健康維持に努めている小規模医療機関」であり、8割が「事務処理の負担が軽減された」と回答していることなどから、措置は妥当と回答している。

 しかし、厚労省が適用対象を「日夜近隣住民の健康維持に努めている小規模医療機関」と決めつけるのは問題だ。まず、日夜近隣住民の健康維持に努めているかは医師によるし、一般に「一人開業医」など人員の少ない医療機関ほど、日夜診療は難しい。新型コロナ対策期間における発熱外来の普及の遅れ、オンライン診療の遅れ、診療情報の電子化の遅れが著しいのは小規模医療機関である。

 なお、小規模医療機関の事務効率は低い。「医療施設調査」によれば、日本では診療所医師1人に対して、事務職員が1.3人、看護師らの医療従事者が1.9人という構成だ。受付や会計事務に人員を要し、診療報酬が医療以外の部分に用いられる割合が高い。仮に医師数人がグループで開業すれば、固定費である事務経費は相対的に節減でき、事務効率も高まる。加えて、医師1人当たり、より多くの患者の診療もできる。つまり仮に「本業に専念で…

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