戦意高揚から反戦へ 栗山民也と大竹しのぶが描き続ける林芙美子の評伝劇 濱田元子
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舞台 こまつ座「太鼓たたいて笛ふいて」
井上ひさしは歴史上の人物を取り上げた数多くの「評伝劇」を書いている。夏目漱石の「吾輩は漱石である」、松尾芭蕉の「芭蕉通夜舟」、樋口一葉の「頭痛肩こり樋口一葉」、魯迅の「シャンハイムーン」、小林多喜二の「組曲虐殺」しかり。いずれも、周囲の人々との関係も含めて人生をユーモアとペーソスあふれるタッチで描きながら、時代と社会状況をくっきりと浮かび上がらせていく。
本作も『放浪記』『浮雲』などの名作で知られる作家、林芙美子(1903〜51年)の戦中・戦後にわたる16年の軌跡をたどる音楽評伝劇だ。
軍国主義の宣伝ガールから、戦後は一転、反戦文学へと「転向」した。2002年に初演されて以来、上演を重ねてきた人気の高い作品である。
満州事変が迫る1930(昭和5)年に出版された『放浪記』がベストセラーとなり一躍、流行作家となった林芙美子(大竹しのぶ)。執筆に行き詰まりを感じていた時、出版した本が重版禁止となる。37年に日中戦争が始まり、日本が長く暗い戦争の時代に突入していく中、プロデューサーの三木孝(福井晶一)にそそのかされて、新聞社の“従軍作家”となり、南京をはじめシンガポールやジャワ、ボルネオに赴いていく。
演出は初演から手がけてきた栗山民也。同じく初演から芙美子を演じてきた大竹に、新たなキャストを迎える。
井上は3演目となった2008年、パンフレットに「この作品が、わたしはほんとうに好きです」と書いている。「戯曲がいいからというのではなく、昭和前半期の悲喜劇を必死で生きた日本人のこころを深く洞察して、そこから得た真実をすぐれた俳優たちに具体的に移し…
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週刊エコノミスト
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