友の死を機に人のつながりが広がるのを水彩画のように描いた群像劇 野島孝一
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映画 アイミタガイ
「アイミタガイ」とは、「相身互い」のことだ。お互いさまだから気にしないで、という日本人のやさしさが込められた言葉で、この映画も日本人の繊細な感情に彩られている。
中部地方の都市でウエディングデザイナーとして働く梓(黒木華)は、親友だったカメラマンの叶海(藤間爽子)が事故死したことにショックを受けている。梓にはサラリーマンの恋人(中村蒼)がいるが、結婚には踏み切れていない。梓は叶海が死んだとわかっていても、生前から交わしていたスマホのトーク画面にメッセージを送り続けている。
叶海の父親(田口トモロヲ)は、図書館司書をしている。その自宅に叶海宛てに児童福祉施設からカードが届く。施設に電話して聞くと叶海は年に何回か施設を訪れていたという。父親は妻を伴って施設に行ってみる。梓の叔母(安藤玉恵)は、ホームヘルパーをしている。訪問先には老婦人(草笛光子)がいて、古いが立派なピアノが置いてある。だが、老婦人はなぜかピアノを封印していた。
小さな地方都市ですら、近年は人と人のつながりが希薄になっている。そんな中で、親友の死をきっかけに人のつながりが広がっていくのを捉えた群像劇だ。原作は中條ていの小説。映画の脚本の画面には、「佐々部清」の名前が入っている。2020年に亡くなられた佐々部清監督が、この映画の企画を進めていたという。佐々部監督は、生前「半落ち」などの大作も手掛けたが、「六月燈の三姉妹」「群青色の、とおり道」など、地元が製作費を出す小規模の「ご当地映画」をたくさん撮った。低予算でも手を抜かない姿勢が好ましくて、私はひそかに佐々部監督を「ご当地映画の巨匠」と呼んで敬愛し…
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週刊エコノミスト
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