筋にも芝居にも無理がない 高水準の演技を保った老優に敬意 芝山幹郎
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映画 2度目のはなればなれ
浜辺にたたずむマイケル・ケインの背後に、看板が見える。描かれているのは《Dデイ70周年記念》の文字だ。
だれしも知るとおり、連合軍によるノルマンディ上陸作戦が実行されたのは、1944年6月6日のことだった。すると、式典が行われるのは2014年6月6日か。ケインが扮するバーニーという90歳の老人は、その式典に出席したいと考えているようだ。
バーニーは、海辺の高齢者施設で妻のレネ(グレンダ・ジャクソン)と暮らしている。近くにブライトン行きのバス停があるから、眼前の海はたぶん英仏海峡だろう。ドーヴァーからフェリーに乗れば、ノルマンディはそう遠くない。
映画がはじまって5分ほどで、観客は映画全体の見取り図を把握することができる。
70年前、英国海軍の兵士だったバーニーは、ノルマンディ上陸作戦に加わった。いまは、海峡をはさんで激戦地の対岸に位置する施設で、病身の妻と暮らしている。式典には出席したいが、妻の病状が気にかかる。
迷いつつ申し込んだツアーは、すでに定員に達して締め切られたあとだ。が、気丈な妻がバーニーの背中を押す。私なら大丈夫よ、行ってくれば。
式典当日の朝、バーニーは散歩に出かけるふりをして、施設を脱走する。タクシーでドーヴァーへ向かい、フェリーでノルマンディ海岸をめざす。
船内では同年代の元英国空軍兵士アーサー(ジョン・スタンディング。ケインとは実際に昔なじみ)と知り合う。ツアーに参加しているアーサーは親切だ。懐の寂しいバーニーに、「よかったら私の部屋に泊まらないか」と持ちかけてくれる。
一方、施設ではちょっとした騒ぎになっていた。妻のレネが最初…
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週刊エコノミスト
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