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カラフルで濃密 愉快で爽快 潜在するさまざまな喜怒哀楽 石川健次

田名網敬一《死と再生のドラマ》2019年カンヴァスに顔料インク、アクリル・シルクスクリーン、ガラスの粉末、ラメ、アクリル絵の具、200×400cm(4枚組) ©︎Keiichi Tanaami/Courtesy of NAZUKA
田名網敬一《死と再生のドラマ》2019年カンヴァスに顔料インク、アクリル・シルクスクリーン、ガラスの粉末、ラメ、アクリル絵の具、200×400cm(4枚組) ©︎Keiichi Tanaami/Courtesy of NAZUKA

美術 田名網敬一 記憶の冒険

 戦争中に幼少期を過ごした田名網敬一(1936~2024年)は、本展図録のなかで空襲の記憶に触れている。長い髪が蛇みたいに首に巻きついている女性の遺体を見て、「この世に未練を残して死んだ女の表情は、火炎の反射を受けて歪(ゆが)み、私に向かって薄笑いを浮かべているのである」。

 後に、そのときの「女の死に顔が瞬時によみがえり、鳥肌が立つほどの恐怖を感じた」こともあるという。

 1950年代後半にデザイナーとしてデビュー後、デザインや絵画、アニメーション、映像、立体作品など多彩な領域、技法を縦横無尽に行き来する田名網は、本展図録の言葉を借りると、それまでに「類を見ない存在」だ。

「マルチなアーティスト像のロールモデル」とも位置づけられる田名網の魅力、軌跡に本展は迫る。会場を一巡して、戦争やハリウッド映画、ピカソなど美術史上の名画やマンガなど、自身の体験や記憶、見てきたさまざまなもの、景色が、作品に色濃くにじんでいるのに気づく。

 代表作のひとつで、反戦ポスターコンテストに入選した《NO MORE WAR》は、底抜けに明るい色彩が、冒頭で触れた幼少期の体験を下敷きにすると、まるで陰画のように悲しみや恐怖に彩られて見えるだろう。

 湿っぽい作品が多いと思われたかもしれない。誤解しないでほしい。底抜けに明るい色彩と書いたように、田名網の作品から受ける印象は、実は陽気で前向きだ。田名網の名を私が知ったのは、日本版月刊『PLAYBOY』初代アートディレクターとしての活動か、かつて手にした『月刊イメージフォーラム』の表紙だったか、あるいは頻繁に開かれる展覧会だったか、よく覚え…

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