少年と少女、そしてコーチの微妙な関係 氷上に描く爽やかなダンスと恋 寺脇研
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映画 ぼくのお日さま
フィギュアスケートを扱った映画というと、「時計 Adieu l'Hiver」(1986年)を思い出す。いしだあゆみ、渡哲也ほかの豪華キャストで、脚本家として人気ドラマ「北の国から」などで知られる倉本聰が、脚本と初めての監督を担当した。
倉本は「北の……」の子役・中嶋朋子の成長に合わせ、5年の歳月を費やして撮影する丹念な映画作りに徹し、フィギュア選手を目指す少女を追った。中嶋はこれで映画女優への道を歩み始め、主演のいしだはこの年の女優賞を総ナメにしている。
そんな派手な作品とは違い、おとなしいが滋味のある映画が生まれた。北海道の小さな田舎町でフィギュアを習う少年と少女は、両親が共に冬季五輪日本代表というサラブレッドで英才教育を受ける「時計」の少女と違い、ごく普通の子たちだ。
冬はアイスホッケー、それ以外の季節は野球をやっている少年は、軽度の吃音(きつおん)がある。題名にもなった主題歌「ぼくのお日さま」は、夫婦デュオ、ハンバート ハンバートの曲で、「ぼくはことばが/うまく言えない/はじめの音で/つっかえてしまう……」と吃音のもどかしさを素朴に唄っており、この歌の映画化との見方もできる。
小学6年生の少年が、同じスケートリンクで練習する中学生の少女の氷上の舞に惹(ひ)かれて見とれ、自分もやってみたいと思うところから物語は動き出す。二人の間を取り持ってくれるのは、少女を教えるコーチだ。元有名フィギュア選手で恋人の男性が住むこの町に東京から移住してきた彼は、見よう見まねで踊ろうとする少年の、競技への憧れにとどまらぬ淡い恋心を察し、初歩から手ほどきしてやった上で、ペア…
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週刊エコノミスト
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