荒唐無稽と言い切れない米国の内戦をリアルに描写 勝田友巳
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映画 シビル・ウォー アメリカ最後の日
いくら分断と対立が進んでいるからといって、米国で再び内戦が起きるとは思えない(というか思いたくない)けれど、あながち荒唐無稽(むけい)とも言い切れない……。そんな不穏な空気が流れているから、こんな映画ができたのかも。
「シビル・ウォー」が描く米国は、内戦のまっただ中だ。一部の州が合衆国からの離脱を表明し、政府軍はテキサス、カリフォルニア両州の“西部勢力”や“フロリダ同盟”と戦っているらしい。反政府軍はワシントンDCに迫りつつあるようだ。ニューヨークにいるカメラマンのリーと記者のジョエルは、大統領への単独インタビューの特ダネを狙い、ワシントンDCへ向かおうとしている。リーの師匠にあたるベテラン記者のサミーと、カメラマンのタマゴ、ジェシーが同乗し、車で戦場を抜ける旅に出る。
「戦場に観客を放り込む」がうたい文句の映画はいくつもあったが、「シビル・ウォー」の臨場感はただごとでない。米国の風景の中に戦場の荒廃を作り出した映像や、銃弾が飛び交う戦闘場面などの精緻な音響設計は、その大きな理由。それこそ身が縮み上がる。4人は高速道路に放置された黒焦げの車両の間をすり抜け、局地的な戦闘のただ中で銃弾をかいくぐりながら写真を撮り、内戦を見ないふりをしている静かな町を通り過ぎる。広大な米国で起こり得る状況をリアルに現出させる。
カメラは4人を追い続け、大状況を示さない。どの勢力圏にいるのか、戦っているのがどこの兵士なのか、彼らにも観客にも分からない。通常の戦争映画なら、軍服や言葉が違うから“敵”と“味方”が判別できる。ところがこの映画では、英語を話す米国人同士が…
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週刊エコノミスト
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