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教養・歴史 エコノミストリポート

香港 旧日本軍マニアの思い 「趣味」か「美化」か 中国・服装禁止法案に身構え 瀨﨑真知子

「第二次世界大戦軍装品館」には旧日本軍の軍服や軍刀などの装備品が並ぶ(九竜で2024年6月) 筆者撮影
「第二次世界大戦軍装品館」には旧日本軍の軍服や軍刀などの装備品が並ぶ(九竜で2024年6月) 筆者撮影

 香港には少数ながら「旧日本軍マニア」がいる。表立った活動はなかったとはいえ、愛国主義教育が一層強化される中、逆風が吹きつつある。

20代女性が開設した「第二次世界大戦軍装品館」

 香港の繁華街から少し離れた、九竜地区の雑居ビルの一室に「第二次世界大戦軍装品館」がある。香港の旧宗主国だった英国の軍隊ならともかく、旧日本軍マニアがいることに違和感を抱く日本人も多いだろう。ましてや今は中国の一部だ。彼らの心性を知りたいと思い、関係者がいると聞いてこの建物を訪ねた。

「フォックス」に憧れ

 筆者を迎えてくれたのは、同館を1人で運営する旧日本軍の軍装マニアの李さん(仮名)。香港生まれの20代後半の女性だ。6畳ほどのスペースに、旧日本軍、英国、ドイツ、米国、中国政府軍の軍服などが整然と陳列されていた。

「異なる歴史観がある中で、戦争体験のない人々に疑似体験してもらいたかった」。李さんは、昨年11月に同館をオープンさせた理由をこう語る。初めて買ったのはドイツ軍の軍装品一式だが、今では旧日本軍関連の装備品が最も多いという。中でも、最も思い入れがあるのが軍刀だ。

 日本の漫画やアニメに慣れ親しんだ世代ではあるが、なぜ旧日本軍に関心を持つようになったのか。「中学(日本の中学・高校に相当)の頃に使っていた歴史教科書の日清戦争(1894~95年)の風刺画が始まりだった」と李さんは振り返る。大地に横たわる大きな身体の清の兵士の腹の上で、甲冑(かっちゅう)を着た小さな日本兵が刀を構える様子を描いた作品。日本の台頭と、世界への衝撃を表現している。李さんは痛快に感じ、何度も見るようになったという。

 旧日本軍に決定的にひき付けられたのは、中学の頃に見た邦画「太平洋の奇跡─フォックスと呼ばれた男」(2011年公開)だという。太平洋戦争末期に激戦が展開されたサイパン島で、大場栄大尉率いる日本陸軍の部隊が、終戦を知らずに米軍と戦い続けた実話を描いた。大場大尉はゲリラ戦を展開し、「フォックス」と呼ばれ米軍から恐れられた。米軍に極限状態まで追い詰められながらも日本住民を守り、不屈の精神と品格を保ったことに李さんは深い感銘を受けたという。

 とはいえ、もっと若い頃は日本が好きではなく、受け入れられないところもあった。しかしその後、ドキュメンタリー番組などを見て、旧日本軍の存在が虐殺行為などといった否定的な側面だけではないことを知ったという。

 李さんは、日本人の死生観にも共感するといい、これまでに鹿児島県の知覧特攻平和会館なども訪れた。「理由? 純粋に好きだという気持ち。精神性です」。李さんは語った。

本土と異なる歴史観

 日本と香港を語る時、「過去の戦争」は切り離せない。1941年12月8日の太平洋戦争勃発を受け、旧日本軍が中国広東省側から英領香港に侵攻し、占領統治した過去を持つ。終戦までの3年8カ月は「暗黒の時代」だったと広く伝わる。

 地元では80、90年代ごろはまだ「反日」の空気が残っていたとされるが、近年は戦争記憶の風化や無関心も手伝い、中国、香港政府が「抗日戦争」を強調する時以外は語られる場面が減っている。香港と同様に占領統治された他のアジア諸国と比べると日本との文化交流などが戦後の早期に再開され、日本への理解度が高いのも香港の特徴だ。旧日本軍に対する興味や理解も、香港独特の歴史的背景が影響している。

 ある60年代生まれの香港人男性は「中国返還(97年)前から旧日本軍の装備品を好んで集める人はいた」と振り返る。別の関係者は「映画など日本のソフトパワーの影響は大きい」と語った。軍装マニア歴20年の風さ…

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週刊エコノミスト

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