ボーイングの宇宙開発難航 ISS運用計画に影響 鳥嶋真也
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米ボーイングの宇宙船「スターライナー」のトラブルが続いており、NASAはISSの運用計画の見直しを迫られている。ISSに参画する日本の宇宙開発にも影響を及ぼすことになる。
米国の威信低下の懸念
航空宇宙大手の米ボーイングの苦境が続いている。今年6月、新型宇宙船「スターライナー」が、初の宇宙飛行士を乗せた飛行試験に飛び立ったものの、技術的問題により、9月には無人で地球に帰還することになった。さらに、有人月探査のために開発中のロケットでも、開発スケジュールが大幅に遅延し、開発費も当初の見積もりを大きく上回っている。
ボーイングは旅客機や軍用機でも問題が相次いでおり、経営が悪化。9月には大規模なストライキも起きるなど、窮地に陥っている。
飛行試験で問題相次ぐ
スターライナーは、国際宇宙ステーション(ISS)への宇宙飛行士の輸送や、将来的な宇宙旅行の実現を目指した新型宇宙船である。米航空宇宙局(NASA)は2010年に、民間企業に宇宙船の開発を委託する計画を立ち上げた。ボーイングはこの計画に参画し、NASAからの資金提供を受けて、スターライナーを開発している。
同計画には、イーロン・マスク氏率いるスペースXも参画し、「クルードラゴン」宇宙船を開発した。クルードラゴンの開発は比較的順調に進み、20年から運用を開始しているが、対照的にスターライナーには技術的な問題が相次ぎ、開発は大きく遅れている。
19年には初の無人飛行試験に臨んだが、故障が相次ぎ、試験を中断して地球に緊急帰還する事態となった。22年に実施した2回目の無人飛行試験では、細かな問題は起きたものの、おおむね成功裏に終わった。次の関門は2人の宇宙飛行士を乗せた飛行試験だったが、宇宙船の姿勢を制御するためのスラスター(小型ロケットエンジン)を動かすのに使うヘリウムが漏れるなどの問題が発生し、打ち上げ延期を重ねた。
今年6月にようやく打ち上げられたものの、新たにヘリウム漏れが起き、さらにISSにドッキングする際には、複数のスラスターが停止する問題に見舞われた。NASAとボーイングは、原因究明と対応策の検討に当たった。その間、宇宙船はISSに留め置かれ、当初8日間の予定だったミッション期間も延び続けた。
そして8月、NASAは、スターライナーの安全性に懸念が残るため、宇宙飛行士を乗せた帰還を断念し、無人で地球に帰還させることを決定した。スターライナーに搭乗していた2人の宇宙飛行士は、来年2月に、スペースXのクルードラゴンに乗り換えて地球に帰還することになった。
9月7日、スターライナーは無人で帰還に成功した。あくまで結果論だが、仮に宇宙飛行士を乗せていても問題なかったという。もっとも、帰還時にも、小規模ながら新たに二つの技術的問題が発生したことが明らかになっている。
ボーイングの経営に打撃
一連の出来事は、ボーイングとNASAの両方にとって大きな痛手となった。
ボーイングにとっては、度重なる開発の遅延や問題発生により、開発費が膨れ上がり、同社の業績に影響を与えている。スターライナーの開発は固定価格契約であり、NASAからは基本的に定められた金額が支払われるのみで、超過分は自ら負担しなければならない。既に、ボーイングの持ち出し金額は16億ドルとも、20億ドルとも言われている。ただし特例として、NASAから臨時で追加資金も支払われている。
スターライナーが運用段階に入れば、NASAからの宇宙飛行士の輸送委託や、宇宙旅行ビジネスで得られる収入で開発費を回収できるが、開発が終わらない限りは見込めない。加えて、1席当たりの輸送コストは約9000万ドルと、クルードラゴンの約5500万ドルに対して大幅に高く、ビジネスで成功できる可能性は低い。
さらに今後、原因究明や改修、また再度の飛行試験を行うことになれば、開発期間はさらに延び、開発費も膨れ上がる。加えて、これまでの度重なる開発の遅延や、飛行試験で問題が相次いでいることを考えると、別の未知の問題が潜んでいる可能性も否定できない。この状況が続くようなら、ボーイングがスターライナーの事業から撤退する経営判断が下される可能性もあるだろう。
一方、NASAにとっても、度重なる開発の遅れにより、ISSへの宇宙飛行士の輸送や滞在など、運用計画の見直しを強いられている。
また、今回のスターライナーの飛行試験が成功していれば、運用段階に入り、30年までに6回の宇宙飛行士の輸送を行うことになっていたが、これも今回の事態で白紙となった。ISSには日本も参画しており、2021年には、スターライナーに搭乗する予定だった若田光一宇宙飛行士が、開発の遅れによりクルードラゴンに乗り換えることになった。今後も、日本人宇宙飛行士の飛行機会が遅れる、少なくなるなどの影響が出る可能性があ…
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週刊エコノミスト
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