国際・政治 学者が斬る・視点争点

インドは州ごとに“顔”が大きく違う 池田恵理

 高成長が続くインド経済。理解をより深めるには州レベルの分析が有効だ。

強い製造業へのシフト必要

 今後の世界を見通すにあたり、インドの動向を無視することはできない。経済的には、世界でもトップレベルの成長率(年6~8%)を誇り、来年にはGDP(国内総生産)で世界4位の日本を追い抜き、2030年までには、米中に続く第3位の経済大国になると予想されている。外交上もグローバルサウスのリーダーとしての地位を確立し、また、戦略的自立性を重んじ、米露中とのつながりを通じた実利的な外交から経済的な利益を最大化しようとしている。世界を見ても、あらゆる分野で在外のインド人の活躍が目覚ましい。日本にとっても戦略的に重要な国との認識を高めていくことが必要だ。

 今回、私が担当する連載では、このようにマクロ経済的視点からますます世界的プレゼンスを増しているインド経済について紹介していく。

 初回は、インドの経済成長と産業構造について解説する。マクロ経済分析は、経済全体、つまり基本的に国レベルでの経済概況についての分析が主となるが、インドの実情をより理解するには、中央政府とその一つ下の行政レベルである、州(States)単位での分析が有効である(更に八つの連邦直轄領があるが、規模が小さいため州に焦点を当てる)。これは、非常に多様な社会・文化・地理・経済的構造が複雑に絡み合ってインドという国が構成されているためである。

州で異なる政策や規制

 現在、インドには28の州がある。憲法で中央政府と州の権限が決まっており、州は農業や教育、産業政策など、行政権限がある分野については中央政府の決めた政策のみならず、それに付随した政策を独自に策定し、実施することが可能である。そのため、州の間で政策や規制が往々にして異なることがあり、州レベルでの理解が企業進出を決める際にも必要不可欠である。複数の国が集まって、一つの経済集合体となった欧州連合をイメージすると、インドの州と国の関係性が分かりやすい。

 マクロ経済分析にはさまざまな指標を使うが、GDPが最も基本的な指標である。GDPが大きい州は、中央銀行であるRBI(インド準備銀行)の20~21年の最新データで、順にマハラシュトラ州、タミルナド州、ウッタルプラデシュ州、カルナタカ州、グジャラート州となっている。年によって順位が変わることもあるが、だいたいこれらの州がインドのトップ5を占め、インド全体のGDPの約半分を担っている。一方で、GDPが小さい州は、山岳部であり地理的に厳しい条件である北東部のセブンシスターズと呼ばれる州に集中している。

 追加で重要な指標は、豊かさを示す1人当たりのGDPである。インドは世界銀行の分類では低中所得層国であり、22年時点でデータがある203カ国中156位である(中国は80位)。州別に見ると、ウッタルプラデシュ州を除く、上記に述べたGDPの大きな4州は、1人当たりのGDPも比較的大きい。一方で、ウッタルプラデシュ州は土地の大きさはインド第4位で、人口は1位であるが、下から2番目に貧しい。生活への不満は、直近の選挙でインド人民党(BJP)が予想外に大敗してしまった理由のひとつとして分析されている。一番貧しいビハール州を含むこうした州は雇用機会が限られているため、国家公務員を数多く輩出したり、都会で建設業やサービス部門に従事している人が多い。

 こういった指標を理解するには、さまざまな要素を考慮することが重要であるが、特に重要なのは、産業構造である。GDPの上位5州だけを見ても、18~21年の平均でインドの製造業のシェアの約6割…

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週刊エコノミスト

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