教養・歴史 アートな時間

学校という「いびつな空間」に潜む病巣がつぎつぎと  芝山幹郎

©︎ifProdductions_JudithKaufmann
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映画 ありふれた教室

 学校というのは奇怪な空間だ。教師と事務職員と生徒がいて、それぞれの間に埋めがたい落差や断絶がある。その構造は、支配と被支配という二元論にとどまらない。もっといびつで複雑で、ときには伏魔殿や暗い森にもなりかねない。

 カーラ・ノヴァク(レオニー・ベネシュ)は、とあるギムナジウムに赴任してきた若い教師だ。苗字からもわかるとおりポーランド系のドイツ人で、7年生(日本でいうと中学1年生)のクラスを受け持っている。

 カーラは張り切っている。速足で歩き、生徒と積極的に語り合う。理想主義者と言い換えても、あながち的外れではない。監督のイルケル・チャタク(トルコ系ドイツ人)は、前進と後退の移動撮影を駆使し、カーラの逸(はや)る気分を的確にとらえる。

 だが、その気分は長く続かない。校内で現金盗難事件が相次ぐのだ。「ゼロ寛容」を標榜(ひょうぼう)する一部の教師たちは、授業中にカーラの教室へ乗り込み、生徒たちの財布を抜き打ち検査する。

 このあたりから、「ありふれた教室」は、気が立ってくる。登場人物の神経がぴりぴりする気配と、映画全体が帯電する不穏な波長が交錯し、目の詰んだスリラーを思わせる緊迫感が、画面を占領しはじめるのだ。

 カーラも、決定的な一歩を踏み出してしまう。盗みの瞬間を撮影しようと考え、財布の入った上着をわざと椅子の背にかけ、ラップトップのビデオカメラを起動して、席を離れたのだ。

 トリックというべきか、トラップと呼ぶべきか。真相追求への意欲というべきか、子供じみた探偵ごっこと呼ぶべきか。

 この行動を機に、映画は「対向車線」にはみ出し、いまにも惨事を惹(ひ)き起こしそうな…

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週刊エコノミスト

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