居場所がないキレる9歳女児の怒りと、彼女に寄り添う大人たちの奮闘 勝田友巳
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映画 システム・クラッシャー
映画にやんちゃな子供が登場することは珍しくないが、ドイツ映画「システム・クラッシャー」の主人公、9歳のベニーは強烈だ。“やんちゃ”なんて生やさしいものじゃない。すべてをことごとく破壊する、手の付けられない暴れん坊。さじ加減を変えればコメディーやファンタジーにもなりそうだが、この映画の基調はリアリズム。居場所のないベニーと周囲の大人たちの、苦しみと奮闘を描き出す。
ベニーは母親と暮らせず、施設に預けられている。思い通りにいかないとすぐキレる。乳児期のトラウマで、顔に触られるとパニックになる。怒りに火が付くと、わめく、ののしる、殴る、手当たり次第に物を投げつけ、自分まで傷つけようとする。病院で拘束され、感情を抑える薬を投与される。しかし何度でも同じことを繰り返す。行く先々の施設で問題を起こして追い出され、新たな受け入れ先を見つけるのが難しい。こんな子供が身近にいたら、さぞかし手を焼くだろう。
しかし映画は、ベニーをモンスターとしては描かない。彼女の望みは大好きな母親と一緒に暮らすことだ。その母親は意志が弱くて頼りなく、ベニーを愛する一方で内心疎んじている。半ば捨てられそうでも、ベニーは母親が迎えに来ると信じ込む。心の底に、深い寂しさがある。頼る相手、甘える対象を渇望しているのだ。
状況は深刻だ。でも暗くない。ベニーのことを真剣に考える大人たちがいるからだ。児童福祉課のバファネは、新たな受け入れ先を探し回り、母親を説得して一緒に暮らせるように働きかける。非暴力トレーナーのミヒャは、山小屋での2人だけの合宿でとげを和らげようとする。里親となろうとするシルビ…
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週刊エコノミスト
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