経済・企業

フォルクスワーゲンが支援しニューヨーク証券取引所へ上場を果たした「将来超有望な全個体電池」ベンチャーの正体

フォルクスワーゲンのEV ID.3(ZB/DPA/共同通信イメージズ)
フォルクスワーゲンのEV ID.3(ZB/DPA/共同通信イメージズ)

日本の投資家はあまり知らないようだが、11月27日、大変な潜在力を持った企業がアメリカのNYSEに上場を果たした。

それがQuantumScape社(ティッカーQS)、アメリカのバッテリー・ベンチャーだ。

QSが手掛けるのは、トヨタ、LG、日本特殊陶業などが激しい開発競争を繰り広げる全個体電池。

従来のリチウムイオン電池の電解液を個体に変えたもので、これが量産されEVに搭載されれば、航続距離とエネルギー補給時間でガソリン車に追いつき、コストではむしろ安くなるという大変な技術だ。

また、安全性も各段に向上する。

日本特殊陶業が開発を進めている全固体電池=同社提供、2019年2月22日
日本特殊陶業が開発を進めている全固体電池=同社提供、2019年2月22日

QS上場日の11月27日(金)には時間前から取引が始まり初値は25.96ドル。

午前9:30の市場オープン時点では少し下がったが、その後急上昇し、初日の終値は38.20ドルとなった。

その勢いは止まらず、上場二日目の30日(月)には取引時間中に一時52.80ドルという高値をつけた。

このように期待が過熱するQSだが、肝心のバッテリーは現在開発中でまだ1個も売っていない。

それどころが、製品化はうまく行っても数年先。

こんな段階で上場が実現し、しかも、その株価は数年内に100倍になる可能性もあるというのだから大変な話だ。

VWがディーゼルを捨てQSに投資

このベンチャーが投資家から注目されたのは、2020年6月、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)グループが2億ドル(1ドル=107円換算で約214億円)の追加投資を発表した時のこと。

目的はもちろん全固体電池の開発を加速することで、成功した暁には真っ先にVWのEVに搭載されることになっている。

QSの創業は2010年で、2年後の2012年には早くもVWと協業を開始した。

当時は実用化目標を2025年としていたが、その後、トヨタなどが「2020年代の早期に」実用化を目指すと発表したこともあり、QSも開発を急いでいる。

QSには、VW以外にもゲイツ財団という強力な投資家がついているし、取締役の一人は元テスラのChief Technology Officerというからかなり強力な体制だ。

とは言え、開発に成功したとしても世に出てくるのは早くても3年後だろう。

また、成功しない可能性もあり、その場合、QSは株式市場から退場し、株は紙屑になる。

QS自身はもちろん、VWもゲイツ財団も、そしてアメリカ市場の投資家達もリスクは承知の上で大きな夢に賭けているようだ。

目覚めたGMも提携に賭ける

アメリカの巨人GMも提携に活路を見出そうと必死だ。

GMはすでに「ボルトEV」などを発売しているが、成功とはほど遠い状況だ。

「ボルトEV」は、当初テスラに対抗して、「モデル3キラー」と銘打ったのだが、累計売り上げ台数では10分の1程度と惨敗している。

このように、これまでEV化では苦悩してきたGMだが、ようやく目覚めたのか、2025年までに年間100万台のEVを販売すると表明している。

そのためにはバッテリーのコストを現在の4割程度に下げる必要があると考えている。

GMのEV戦略における最重要の提携先が韓国のLG化学で、GMが「Ultium(アルティウム」と呼ぶ新型バッテリーの開発を目指している。

LG化学は、最近リチウムイオン電池市場で世界シェア1位に躍り出て注目を集めているからGMにとっては心強いパートナーだ。

「アルティウム」が全個体電池かどうかは定かではないが、大容量・低価格を目指している。

容量的には、現在市販されている中で最大のバッテリーパックはテスラ「モデルS」などが搭載している100kWhだが、GMは最大200kWhのものをつくるという。

また、価格的には、「ボルトEV」に搭載されているバッテリーが1kWhあたり145ドルなのに対し、「アルティアム」は100ドル以下に下げられる見通しだという。

大手のVWとGMが提携戦略に活路を見出そうとしている。

では、日本の大手であるトヨタはどんな戦略を採ろうとしているのか、次回コメントする予定だ。

村沢義久(むらさわ・よしひさ)

1948年徳島県生まれ。東京大学工学部卒業、同大学院工学系研究科修了。スタンフォード大学経営大学院でMBAを取得後、米コンサルタント大手、べイン・アンド・カンパニーに入社。その後、ゴールドマン・サックス証券バイス・プレジデント(M&A担当)、東京大学特任教授、立命館大学大学院客員教授などを歴任。著書に『図解EV革命』(毎日新聞出版)など。

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