法務・税務

相続開始から10年過ぎると“法定相続分”で遺産分割することが原則に 横山宗祐

不動産などを巡っていつまでもずるずると遺産分割協議を続けるわけにもいかなくなる… Bloomberg
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 遺産分割協議はずるずると長期化するケースが少なくない。今後は早期の解決がポイントになる。

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 4月1日施行の改正民法では、相続における「特別受益」や「寄与分」に関する事項が変更される。父や母が死亡した時に、その子どもたちなどで親の遺産を分ける遺産分割を行うケースが多いが、民法ではその遺産分割に際して、「法定相続分」という分配の基準を定めている。

 しかし、実際の遺産分割は、その基準が簡単に当てはめられる例は多くない。例えば、父親が亡くなって相続人が妻と子2人の場合、法定相続分は妻が2分の1、子2人がおのおの4分の1ずつだが、生前の父親との関係などを加味すればこのように相続することが公平でないケースも多い。そのような場合の調整方法が、「特別受益」や「寄与分」という考え方だ。

 他方、この「特別受益」や「寄与分」が、遺産分割の長期化や混乱を招く原因の一つにもなっている例も多い。そのため、今回の民法改正では「特別受益」や「寄与分」を加味した形での遺産分割を行うことに関して、期間の制限を設けることとした。

「特別受益」や「寄与分」とは何なのか、想定事例で説明しよう。

 Aさんは個人で工務店を経営しており、長男のBは、高校を卒業してから長い間、その工務店の手伝いをしていた。そのため、Aさんの資産は2000万円増えた。他方、次男のCは、工務店を手伝わず、結婚を機に自宅を購入して引っ越したが、その際、父親のAさんから、自宅購入資金3000万円を出してもらっていた。その後Aさんは、2023年1月に急死した。Aさんは遺言書を作成しておらず、Aさんの遺産相続人は息子のBとCの2人だけで、遺産は預貯金8000万円だけだった。

モメる金額の評価

 このケースでの遺産相続は、息子のBとCに「法定相続分」の基準通りに相続させる場合、BもCも預貯金を4000万円ずつ取得することになる。だが、このような結果では、公平な相続が実現しているとは言い難い。息子Bは家業の工務店を手伝い、父親Aの財産を増やしているのに、プラスの評価がされておらず、他方、Bは自宅購入資金を援助してもらった分、得をしているにもかかわらず、相続の際にそれらが加味されていない。

 息子Bのように父親Aの資産形成に寄与した者については、その資産増加(もしくは資産減少防止)に貢献した分を、遺産から分けて、息子Bの相続財産に加えて受け取ることができる。これを「寄与分」という。一方で、息子Cのように、父親Aから生前に贈与を受けている者については、その分を相続財産の先渡しとして扱う。これを「特別受益」という。こうし…

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